飛鳥山あすかやま)” の例文
江戸時代のお花見といえば、上野、向島、飛鳥山あすかやま、これは今も変りがありませんが、御殿山ごてんやまというものはもう無くなってしまいました。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この国研は(国立科学研究所を国研と略称することも、の日知ったのである)東京の北郊ほくこう飛鳥山あすかやまの地続きにある閑静かんせいな研究所で
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
飛鳥山あすかやまの茶店で多勢おおぜい芸者や落語家はなしかを連れた一巻いちまきと落ち合って、向うがからかい半分に無理いした酒に、お前は恐ろしく酔ってしまって
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
訓練不足の民衆と、乱雑不整頓、無茶苦茶の都会交響楽であり、飛鳥山あすかやまの花見の泥酔の中で競馬が始まった位の混乱だ。
即ち左手には田町たまちあたりに立続く編笠茶屋あみがさぢゃやおぼしい低い人家の屋根を限りとし、右手ははるか金杉かなすぎから谷中やなか飛鳥山あすかやまの方へとつづく深い木立を境にして
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「寶掘りは飛鳥山あすかやまが最初で、向島が二度目、今度は錢形の親分のお膝元の宮本町へ來たが、飛島山以來のことだから、俺が顏を出して惡いわけはあるまい」
其の渡邊織江が同年の三月五日に一人の娘を連れて、喜六きろくという老僕じゞいに供をさせて、飛鳥山あすかやまへまいりました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
みんなして、近所きんじょ飛鳥山あすかやまへ、お花見はなみかけたあのとき、いつものとおり、あたしとおまえとは夫婦ふうふでござんした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
隅田堤すみだづつみ飛鳥山あすかやま公園、帝室博物館、東京教育博物館、動物園、帝国大学植物園、帝国図書館、まるでもう無我夢中で、それこそあなたがさっきお話したような
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
飛鳥山あすかやまの桜を一見し、(妹は初めて飛鳥山を見たのである)それからあるいて赤羽まで往て、かねて碧梧桐が案内知りたる汽車道に出でて土筆狩を始めたそうな。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
飛鳥山あすかやまもそのとおり、ここは今でも治外法権だが、以前のような悪く凝った花見風俗はあまり見かけぬ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
また本年第九大区小三の区飛鳥山あすかやま下において施術したる麦を六月十四日収穫したる概表左のごとし。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
彼女はいま財界になくてならぬ大名士だいめいしの、時めく男爵夫人である。飛鳥山あすかやまの別荘に起臥おきふしされているが、深川の本宅は、思出の多い、彼女の一生の振出しの家である。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
飛鳥山あすかやまの花見をかく、踊ったり、ねたり、酣酔狼藉かんすいろうぜきの体を写して頭も尾もつけぬ。それで好いつもりである。普通の小説の読者から云えば物足らない。しまりがない。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうそうは方図が無いと思ッてどうしても遣らなかッたらネ、不承々々に五十銭取ッてしまッてネ、それからまた今度は、明後日あさってお友達同志寄ッて飛鳥山あすかやま饂飩会うどんかいとかを……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この日、避難民の田端たばた飛鳥山あすかやまむかふもの、陸続りくぞくとして絶えず。田端もまた延焼せんことをおそれ、妻は児等こらをバスケツトに収め、僕は漱石そうせき先生の書一軸を風呂敷ふろしきに包む。
なお、ちなみに、彼の柏木貨一郎氏は、後年、確か、某家の飛鳥山あすかやまの別荘へお茶の会に招かれての帰りみち、鉄道のレエルに下駄の歯を取られ、あっという間に汽車が来て、無惨の最後を遂げられました。
尋ねしかど未だ天運てんうんさだまらざるにや一向に手懸りさへもなくむなしく其年もくれて明れば享保五年となり春も中旬なかば過て彌生やよひの始となり日和ひより長閑のどかに打續き上野飛鳥山あすかやま或ひは隅田川すみだがはなどの櫻見物さくらけんぶつに人々の群集ぐんじゆしければ今ぞかたき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
早いのが飛鳥山あすかやま
「知ってるよ、それで巣鴨へ花見に行こうというんだろう。向島むこうじま飛鳥山あすかやまなら花見も洒落しゃれているが、巣鴨の田圃たんぼ蓮華草れんげそうむなんざ、こちとらの柄にないぜ、八」
と云うと大層だが、実は飛鳥山あすかやまの大きいのに、桜を抜いて松を植替えたようなものだから、心持の好い平庭ひらにわを歩るくと同じである。松も三四十年の若い木ばかり芝の上に並んでいる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
上野から道灌山どうかんやま飛鳥山あすかやまへかけての高地の側面は崖のうちで最も偉大なものであろう。神田川を限るお茶の水の絶壁は元より小赤壁しょうせきへきの名がある位で、崖の最も絵画的なる実例とすべきものである。
この二十一日に飛鳥山あすかやまへお花見に行こうと思っているんです。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
柳原土手は宵から淋しく、花時の人間は向島、飛鳥山あすかやまに集中して、此處はあまり人通もありません。
また飛鳥山あすかやまより遠く日光にっこう筑波つくばの山々を見ることを得ればただちにこれを雲の彼方かなた描示えがきしめすが如く、臨機応変に全く相反せる製図の方式態度を併用して興味津々しんしんよく平易にその要領を会得せしめている。
飛鳥山あすかやまの花見帰り、谷中やなかへ抜けようとする道で、銭形平次は後ろから呼止められたのです。
眞太郎が飛鳥山あすかやまの花見でお仙を見染め、戀患ひまでして祝言をすると、急に自分が裏切られたやうな氣になつて、恥も外聞もなく眞太郎にへばり付き、花嫁のお仙までも敵のやうに思つた