かみ)” の例文
それから又喰べるものは、皆おいしいで、「鶉のかみ」といふお役が出来て、籠の掃除やら、餌の世話など一切をいたします。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
右馬うまかみ菟原うばら薄男すすきおはとある町うらの人の住まない廃家の、はや虫のすだいている冷たいかまどのうしろにこごまって、かくれて坐っていた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「どちらがですえ、ほうきかみさま。わたしたちが知らずにいたら、そのまま御出陣のおつもりだったんでしょ。まあ憎い」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裾の方は屏風びょうぶで囲われ、かみの方の障子の破隙やぶれから吹き込む夜風は、油の尽きかかッた行燈の火をあおッている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
原稿のかみのところにすえたまま、眠りのあいだにたくわえた力を、真底から良心的な朝の二時間または三時間にわたって、芸術へ供物くもつとしてささげたのである。
危なく声を立てようとして、待てしばし、万一ひょっと敵だったら、其の時は如何どうする? この苦しみに輪を掛けた新聞で読んでさえかみ弥竪よだちそうな目におうもしれぬ。
『のせざる草紙』に、丹波の山中に年をへし猿あり、その名を増尾のごんかみと申しける。今もこの辺で猴神の祭日に農民群集するは、サルマサルとて作物が増殖する賽礼さいれいという。
大学だいがくかみに尋ねた。大学の頭ですらも。それから守は宗教に志し、渋谷の僧に就いて道を聞き、領地をばをひに譲り、六年目の暁に出家して、飯山にある仏教の先祖おやと成つたといふ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
鍛冶かじかみはかんと打ち、相槌はとんと打つ。されども打たるるは同じつるぎである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今日はよっぽどよい方だけども、まだかみが重くて、時々せきが出て困るの」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
行歩こうほすこやかに先立って来たのが、あるき悩んだ久我くがどのの姫君——北のかたを、乳母めのとの十郎ごんかみたすけ参らせ、おくれて来るのを、判官がこの石に憩って待合わせたというのである。目覚しい石である。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところで大変私のかみの毛もひげも伸びて居る。十ヵ月ばかりも剃らないから非常に長くなって居る。その長いのが寒い所を旅行するにはごく暖かで都合がよいものですから、そのまま打棄うっちゃってあった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
芥子けしかみみづ
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
「したが、そちたちはわしを“ほうきかみ”といったりするではないか。箒よりはまだ狒々の方がましであろ」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
津の国にまでこの音いろがとどいたなら、右馬うまかみのところが分るだろうにと思うくらいだった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
道誉がまだ“ほうきかみさま”でない初心うぶな少年の日に早くも枕席にはべって初めての閨戯けいぎをお教えしたものと、みずからそれを光栄にしているおんなで——いまでこそは
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生絹はまだ明るい夕あかりのなかにまごう方もない、菟原うばら薄男すすきおを見たのであった。頬はくぼみ眼はおとろえ、これが薄男の右馬うまかみとはどう考えても信じられぬほどであった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
長崎円喜えんき、金沢ノ大夫たゆう宗顕そうけん佐介さかい前司ぜんじ宗直むねなお、小町の中務なかつかさ秋田あきたじょうすけ、越後守有時ありとき右馬うまかみ茂時しげとき相模さがみ高基たかもと刈田式部かったしきぶ、武蔵の左近将監さこんしょうげんなど、ひと目に余る。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花街攀柳かがいはんりゅうそのというものは男にとり妙なてらいとちがった分別をさせるもので、道誉もまたこの社会では「伊吹さま」とか「ほうきかみさま」とか、とかく艶名高い方だったから
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
使いとして、これへ来たのは、松田重明の一子、ごんかみ五郎吉重よししげで、用がすむと早々に
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左馬さまかみをさずけられ、三河の一部と遠江一国を。
「しかし、わしの官位などは、依然として、大掾に止まったままだ。何というても、田舎にいては、がわるい。おもとは、右馬允になり、やがては、衛府えふかみにもなれよう。官職では、この老父よりはるかに上じゃよ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、五郎ごんかみは、あきらめきれない。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)