阿母おっか)” の例文
あの時お前のおとっさんは、お前の遣場やりばに困って、阿母おっかさんへのつらあてに川へでも棄ててしまおうかと思ったくらいだったと云う話だよ。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこで酒宴が開かれますと、花聟の阿父おとっつぁん阿母おっかさんは花聟および花嫁媒介人なこうどならびに送迎人らに対して例の一筋ずつのカタを与える。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
北村君と阿母おっかさんとの関係は、丁度バイロンと阿母さんとの関係のようで、北村君の一面非常に神経質な処は、阿母さんから伝わったのだ。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はッというので、近常さん、(阿母おっか喜んで下さい。)と、火鉢で茶を入れていたおふくろさんと、課長殿の顔を見て、濃い眉の下に露一杯。
詳しいことは阿母おっかさんに話してあるから、おまえも家へ一度帰ってよく相談をして来いと、お蝶はかの女から云い聞かされて来たのであった。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
喧嘩をしなければ怪我もしない、友達と喧嘩をしてないて家にかえっ阿母おっかさんに言告いいつけると云うようなことはただの一度もない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と言うのはね、あの次の日にS君の家に行くと、S君の阿母おっかさんが出てこられたから「このたびは御厄介になります」と言って挨拶をしたんだね。
旅からのはがき (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
「ええ、阿母おっかさんは御在宅ですか。手前少々見て頂きたい事があって、上ったんですが、——御覧下さいますか、いかがなもんでしょう。御取次。」
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「なにしろ阿母おっかさんがあれでしょう。行かなければならないの、今松さん。あんたとももう逢われなくなるのねえ」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「ねえ、阿母おっかさん此様こんな犬は何処へ行ったって可愛がられやしないやねえ。だからうちで可愛がって遣るんだねえ。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「だから阿母おっかさんが今考えているんだよ。お父つぁんが、用事の都合で急に今夜お帰りになることになったから、それで知らせに来て下さったんだとさ!」
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「鼻の大きい男は、なにかも大きいって云うじゃないの、それに、馬鹿のなんとかって、……いいわ阿母おっかさん、この人の食い扶持はあたしが払うことにするわ」
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御廃およしなさい、阿母おっかさんの世話は藤尾にさせたいからと云うし、そんなら独立するだけの仕事でもするかと思えば、毎日部屋のなかへこもって寝転んでるしさ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お客の前へ小供が馳出かけだして阿母おっかさんアレなぞと菓子皿へ指をさすのはあんまり見っともい事でない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
うちもん心配しんぺえを掛けて本当に困るじゃアねえか、阿母おっかアはおめえを探しに一の鳥居まで往ったぜ、親の心配は一通りじゃアねえ、年頃の娘がぴょこ/\出歩いちゃアいけねえぜ
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
置いたセンチメンタルなどは僕の阿母おっかさんにでも泪を流させればいいのだしといつて事実——現象とでも言ひませうか——は理知とか思想の力でもつて産み出されてゆくのだから
「まあ九分までは出来たようなものさ、何しろ阿母おっかさんが大弾おおはずみでね」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
阿母おっかちゃんさきいてんべえか……
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「あの子は育たないかも知れませんよ。阿母おっかさんは心配して乳が上っているんですもの。脚など、自家うちの子くらいしけアありませんよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それに懲りて、藤崎さんは好きな芝居を一生見ないことに決めまして、組頭や阿母おっかさんの前でも固く誓ったと云うことです。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の阿母おっかさんは非常に慈悲深い親切な人である。それから自分の故郷にはヤクが百五、六十ぴきに羊が四百疋ばかりある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
間もなく老人と姉さんと母子二人出京して、ソレから糺問所きゅうもんじょの様子もわか差入物さしいれものなどして居る中に、阿母おっかさんが是非ぜひ釜次郎かまじろうに逢いたいと云出いいだした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「そうしてあなたが子でないと云う事は、——子でない事を知ったと云う事は、阿母おっかさんにも話したのですか。」
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
阿母おっかさんだな! と気がついて私がはね起きた時には、隣りで親父も眼を醒ましたらしい気色でございました。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
阿母おっか一番鶏いちばんどりが鳴きました。時計はのうても夜は明けます。……鶏の目を明けよ、と云うおおせ、しかも、師匠のお家から、職人冥加みょうがかないました。御辞退を
北村君が亡くなった後で、京橋鎗屋町の煙草屋の二階(北村君の阿母おっかさんは煙草店を出して居られた)
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
如何どうしたのだか、祖母とは仲悪で、死後迄余り好くは言わなかったが、何かの話のついでに、阿母おっかさんもお祖母ばあさんには随分泣されたものだよ、と私に言った事がある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「ありゃその御本人の阿母おっかさんじゃねえか。俺は御本人のお顔のほうが早く教えてもらいてえんだよ」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
大原満は父母を捜して此方こなたへ来り「これは阿父おとっさんも阿母おっかさんもお揃いでオヤ伯父おじさんも、オヤ伯母おばさんも」と驚きたる時横合より「満さーん」と懐かしそうにすがく娘
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
豐「いわね、私の堅い気象はみんなが知って居るし、私とお前と年を比べると、私は阿母おっかさんみた様で、お前の様な若い子みたいな者とう云う訳は有りませんから一緒にお寝よ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
阿母おっかさんになにかあったときは、すぐわかるようにして下さるんでしょうか」
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まあどうして、あんなに聞き訳がないんでございましょう。何か云い出すと、阿母おっかさんわたしはこんな身体からだで、とても家の面倒は見て行かれないから、藤尾にむこを貰って、阿母おっかさんの世話をさせて下さい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ、S君の阿母おっかさんが新しく茶を入れて持ってこられた。
帰途 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
お花さんの阿母おっかさんは私の仲良い友達であつた。
訣れも愉し (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「そんな事があったかないか知らないけれど、あっしの家内なら、阿母おっかさんは黙ってみていたらいいでしょう。一体誰がそんな事を言出したんです」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それと連れ立って来る阿母おっかさんや姉さんたちを相手にして新しい狂言を書くということは、ずいぶん難儀な仕事ではあるが
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それだけではない。彼らは元来生れてから身体からだを洗うということはないので、阿母おっかさんの腹の中から出て来たそのままであるのが沢山あるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その前後に緒方の隠居は江戸に居る。れは故緒方洪庵先生の夫人で、私は阿母おっかさんのようにして居る恩人である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あすこにね、私の親たちの墓があるんだが、そのまわりの回向堂えこうどうに、あなたの阿母おっかさんの記念かたみがある。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
門は明放あけばなし、草履は飛び飛びに脱棄てて、片足が裏返しになったのも知らず、「阿母おっかさん阿母さん!」と卒然いきなり内へわめき込んだが、母の姿は見えないで、台所で返事がする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
阿母おっかさんお止しよ! そんな妙な顔をして! なんだってそんな真似をするんだ!」
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
泰さんは娘の顔を見ると、麦藁帽子を脱ぎながら、「阿母おっかさんは?」と尋ねました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その内に大原さんの阿父おとっさんという人が何か言出すとお代さんが大声揚げてワーッと泣き出すやら、阿母おっかさんが急にお代さんをなだめるやらそれはそれはおかしいようでございますよ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
隙間からのぞいたって灯も見えねえ、戸をぴしゃっと閉めてみんな寝ちまッているんだ、……阿母おっかアけえったぜ、父はそっとこう呼ぶんだ、低い声でよ、そおッと指の爪で戸を叩きながら
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今度は乃公おれが勤めるんだなんて、阿父さんが暗いうちから起きておかまの下を焚付たきつけて下さるんです……習慣に成っちゃって、どうしても寝ていられないんですッて……阿母おっかさんが起出す時分には
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それほどの苦労の甲斐もなく、やっぱり阿母おっかさんは死んでしまった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「しかし阿母おっかさんが心配するだろう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阿母おっかさんも正直な人ですから、別にわが子を疑うようなこともなく、それで無事に済んでしまったのですが、それから三月四月と過ぎるうちに
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まあ阿母おっかさん、そんなに御立腹なさらないで、後生ですから家にいて下さい。阿母さんが出ていっておしまいなすったら、わたしなんざどうするんでしょう」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夜が明けても、あてはないのに、夜中一時二時までも、友達のとこへ、くるしい時の相談の手紙なんか書きながら、わきで寝返りなさるから、阿母おっかさん、蚊が居ますかって聞くんです。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)