鋼鉄はがね)” の例文
旧字:鋼鐵
第三の函からこれもまた鋸屑おがくずとも鋼鉄はがね屑とも見分けの付かぬ、例の詰物を取り出して、マクドナルド博士とともに掌で揉んでみたり
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
前にも、後にもない、鋼鉄はがねのようにしまりきった時間を、ポーンと凝集しきった形できめつけるような太鼓なのであります。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
つなぎ合せて肩をおおえる鋼鉄はがねの延板の、もっとも外に向えるが二つに折れて肉に入る。吾がうちし太刀先は巨人の盾をななめってかつと鳴るのみ。……
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝食が済んだ後で、霧がはれて、海がギラギラ青い鋼鉄はがね色に煌きはじめると、二組の夫婦はそろって海水浴に出かけた。
取り付けてある鋼鉄はがねの環、それとて尋常なものではない、無数の鋭い金属性の棘で、よろわれたところの環である。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おとうとゆきうえわたって、かわのあるほうへいきました。すると、かわみずもまた鋼鉄はがねのようにこおっていたのであります。
白すみれとしいの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの直径二フェートインチ、全長二百何十フェートという、大一番の鋼鉄はがね円棒シャフトだ。重さなんかドレ位あるか、考えたってわかるもんじゃない。実際、傍へ寄ってみたまえ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今一人は十八九の若武者と見えたけれど、鋼鉄はがねの厚兜が大概顔をかくしているので十分にはわからない。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
鋼鉄はがねいろの馬のりごろも裾長すそながに着て、白き薄絹巻きたる黒帽子をかぶりたる身の構えけだかく、いまかなたの森蔭より、むらむらと打ち出でたる猟兵の勇ましさ見んとて
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と申すはただの鑢は鋼鉄はがねうして斯う遣れば私の手にもヲシ/\出来るが、のこぎりやすりばかりはむずかしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
鋼鉄はがねのようにつよく容赦なく互の独自性を主張して存在しようとしている個性のそばだちを感じた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
鋼鉄はがねの如く真剣に、やいばの如く剛直な妻」と、或る戯詩の中で、彼はファニイの前にかぶとを脱いだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「防弾チョッキを着てやがるんだ。生命には別条ない。昨夜彼奴の防弾チョッキを見たが、君の呪いの弾丸が二発鋼鉄はがねの上に浅い凹みを造っていたぜ。もしとおりぬけりゃ、心臓を射留めたろう」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
外から見なさるがい。鋼鉄はがねを磨いたようにたいら
そして俺達の組合は鋼鉄はがねの規律を重んずる
鋼鉄はがねの箍はめ、ポンとて村長を!
鋼鉄はがねの色の大空に
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いつのまにか、さむさのためにゆきうえかたこおっていました。それは鋼鉄はがねのように、がってもカンカンとひびくばかりで、まることはありませんでした。
白すみれとしいの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これもまた一見したところでは鋸屑のごとく、セロファン屑のごとくには見えたが、もっともっと繊細な、紙屑ともつかねば鋼鉄はがね屑とも思われぬ、妙な詰物なのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
練兵場のよこを通るとき、おもくもが西で切れて、梅雨つゆにはめづらしいせき陽が、真赤まつかになつてひろはら一面いちめんらしてゐた。それがむかふくるまあたつて、まはたび鋼鉄はがねの如くひかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
鋼鉄はがねいろの馬のりごろも裾長すそながに着て、白き薄絹巻きたる黒帽子をかぶりたる身のかまえけだかく、今かなたの森蔭より、むらむらと打出でたる猟兵の勇ましさ見むとて、人々騒げどかへりみぬさま心憎し。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
船渠ドックの中で遣っても相当、骨の折れる仕事を、沖の只中で流されながら遣ろうというのだからね。……のみならず今も云う通り、七八千トンの屋台を世界の涯まで押しまわろうという鋼鉄はがねの丸太ン棒だ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここに鋼鉄はがねで宵の明星が拵えてある。
桶屋、はめろや鋼鉄はがねの箍を!
鋼鉄はがねさ、斬れる金さ」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
次いで私共は、函の中に納められた諸物品を調べ始めましたが、まず第一に鋸屑おがくずとも付かず、鋼鉄はがね屑とも付かず、またセロファン屑とも付かぬ、この軽い綿のごときものであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
練兵場れんぺいばの横を通るとき、重い雲が西で切れて、梅雨には珍らしい夕陽せきようが、真赤になって広い原一面を照らしていた。それが向うを行く車の輪にあたって、輪が回る度に鋼鉄はがねの如く光った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)