金棒かなぼう)” の例文
そしてにぎやかなはやしの音につれて、シャン、シャンと鳴る金棒かなぼうの音、上手かみてから花車だしが押し出してきたかのように、花魁道中おいらんどうちゅうしてきた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早や大引おおびけとおぼしく、夜廻よまわり金棒かなぼうの音、降来る夕立のように五丁町ごちょうまちを通過ぎる頃、屏風のはしをそっと片寄せた敵娼あいかた華魁おいらん
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
長い通りの突当りには、火の見の階子はしごが、遠山とおやまの霧を破って、半鐘はんしょうの形けるがごとし。……火の用心さっさりやしょう、金棒かなぼうの音に夜更けの景色。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実に鬼に金棒かなぼうでありまして、もとより、あなたをひらの党員では決しておきません、これは既に内定していることでありまして、幹事長になって貰い
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
器械体操では、金棒かなぼう尻上しりあがりもできないし、木馬はその半分のところまでも届かないほどの弱々しさであった。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
鬼は金棒かなぼうを忘れたなり、「人間が来たぞ」と叫びながら、亭々ていていそびえた椰子やしの間を右往左往うおうざおうに逃げまどった。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
金棒かなぼうだの、鈴のだの、汗いきれの掛け声に勢をつけて、まず、神輿の鼻を、どうんと格子へぶつけた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸者の揃いの手古舞てこまい姿。佃島つくだじま漁夫りょうし雲龍うんりゅう半纏はんてん黒股引くろももひき、古式のいなせな姿で金棒かなぼうき佃節を唄いながら練ってくる。挟箱はさみばこかついだ鬢発奴びんはつやっこ梵天帯ぼんてんおび花笠はながさ麻上下あさがみしも、馬に乗った法師武者ほうしむしゃ
仁和賀にわか金棒かなぼう親父おやぢ代理だいりをつとめしより氣位きぐらいゑらくりて、おびこしさきに、返事へんじはなさきにていふものさだめ、にくらしき風俗ふうぞく、あれがかしらでなくばと鳶人足とびにんそく女房にようぼう蔭口かげぐちきこえぬ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
金棒かなぼう引きのおかやばばあ、いるかどうだか解りゃしねえ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おに金棒かなぼう。似たもの夫婦。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
日常身辺の事一として話の種ならざるはなし。然れども長屋のかか金棒かなぼう引くは聞くにへず識者が茶話さわにはおのづと聞いて身のいましめとなるもの多し。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そういったのは、村の小学校の金棒かなぼうの下に集まった少年たちの中の一人だった。いや、この少年こそ、この物語のはじめに出て来た八木音松少年だった。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
横町よこてう組と自らゆるしたる乱暴の子供大将にかしらちようとて歳も十六、仁和賀にわか金棒かなぼうに親父の代理をつとめしより気位ゑらく成りて、帯は腰の先に、返事は鼻の先にていふ物と定め、にくらしき風俗
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「もう二分と経たない間に沈んでしまうぞ」同室の将校達は、奇声きせいをあげて、非常梯子のすべ金棒かなぼうに飛びつくと吾勝われがちに、第一甲板かんぱんの方を目懸けて、降りて行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いかにもものうくまた心地よく耳許に残っていたが、いつか知ら風の消ゆるが如くうしお退く如くに聞えなくなってしまうと、戯作者の魂はたちまちいずこからとも知れず響いて来るかすか金棒かなぼうの音を聞付けた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)