解剖かいぼう)” の例文
この矛盾を根柢まで深く解剖かいぼうし、検覈けんかくすることを、そうしてそれが彼らの確執かくしつを最も早く解決するものなることを忘れていたのである。
例へば自叙伝の執筆の如きわが身の上をも他人のやうに眺め取扱ふ余裕なくんばいかでか精緻せいち深刻なる心理の解剖かいぼうを試み得んや。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
例えば彼の女性観を聞くと自分自身が女性でありながらち一ち傾聴けいちょうせずには居られないくらいに深刻に女性を解剖かいぼうしています。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「このすずめ、ぼくたちにおくれよ。先生せんせいにあげるのだから、ぼくたち、理科りか時間じかんに、解剖かいぼうをしてもらうんだよ。」と、小西こにしが、こたえました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もっとも複雑な分子の寄って出来上った善悪とか邪正じゃせいとかいう問題になると、少々込み入った解剖かいぼうの力を借りなければ何とも申されませんが
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また今は医師が解剖かいぼうと生理など講じて居ります。昨年はバクテリヤについて講義もきゝました。また校長が自ら看護法など学術的に教えて居ります。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いな解剖かいぼう上よりいえば、婦人が婦人としての身体を有せぬが恥ずべきことである。ゆえに各人が秘密を有すればとて決して怪しむに足らぬ当然なことである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし体を売ったと云っても、何も昔風に一生奉公いっしょうぼうこうの約束をしたわけではありません。ただ何年かたって死んだのち、死体の解剖かいぼうを許す代りに五百円の金をもらったのです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無気味な解剖かいぼう学者として、諸戸が甚だ風変りな人物であることは知っていたけれど、その彼に、かくの如き優れた探偵能力があろうとは誠に想像だもしなかった所である。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いや、もっともっと深刻に信長の心理を剔抉てっけつし、皮肉な解剖かいぼうを加えていうかもしれない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり、彼の死は単なる自動車の衝突による過失のための死ではなくて、明白な他殺であることが、死体を検案した警察医並びに解剖かいぼうに立ちあった医師連全体の一致の見解であった。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
今だからこそ、私ははっきりと自分の心持ちを解剖かいぼうすることができるが、私はその時多分にこの青年の目的とするものを感づいていた。が、思いきってそれをはねとばすことができなかった。
けれどわたしは自分の心を自分自身にすら細かく解剖かいぼうすることができなかった。わたしたちはもういちいち立ち止まって人に聞く必要ひつようはなかった。白鳥号がわたしたちの先に立って進んで行く。
その惡事あくじたとへば殺人罪さつじんざいごと惡事あくじ意味いみもなく、原因げんいんきものとふをべきや、これ心理的しんりてき解剖かいぼうして仔細しさいその罪惡ざいあく成立なりたちいたるまでの道程みちのりゑがきたる一書いつしよ淺薄せんはくなりとしてしりぞくることべきや。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
七月目の腹籠はらごもり、蝮が据置かれた硝子がらす戸棚は、蒼筋あおすじの勝ったのと、赤い線の多いのと、二枚解剖かいぼうの図を提げて、隙間一面、晃々きらきらと医療器械の入れてあるのがちょうど掻巻かいまきすその所、二間の壁に押着おッつけて
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから、五六日過ぎて矢野は、自分のほうの講義がすんでから、二三の同級生がさそうままに、解剖室かいぼうしつを見に行った。矢野は医学生いがくせいながら解剖かいぼうというものを始めて見るので、なんとなく気味が悪い。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ぼくたち屋根やねからおっこちたすずめをたすけてやろうとおもっているのにころすなんて、そんなことできません。解剖かいぼうしたかったら、自分じぶんってくればいいのです。」
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
または直覚の活作用とも見傚みなされる彼女の機略きりゃくであるか、あるいはそれ以外の或物であるか、たしかな解剖かいぼうは彼にもまだできていなかったが、何しろ事実は事実に違いなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしの宿の主人の話によれば、半之丞がこう言う死にかたをしたのはいやしくも「た」の字病院へ売り渡した以上、解剖かいぼう用の体に傷をつけてはすまないと思ったからに違いないそうです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二つに割ってみれば、ちょうど人間の脳を解剖かいぼうしてみたと同じに、大脳や小脳や血漿けっしょうや細胞や、微妙な物体の機構がくるんであるのだった。誰がこれを生き物でないといえるだろうか。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに容貌ようぼう解剖かいぼう的のものでなく、心の作用によりては、少なくともその表情を変えることが出来る。そして人の顔色を読むには、骨格こっかく肉付きの如何いかんよりも、むしろその表情によることが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
解剖かいぼうするなら、きみたち、かってにすずめをったらいいだろう。」と、青木あおきもいいました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「君のような理想家が、昔は人体解剖かいぼうを人道にもとると云って攻撃したんだ。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)