血相けっそう)” の例文
そして、さらに、まえよりはすごい血相けっそうで、般若丸のッ先を向けなおし、剣を目とし、見えぬ目に、ジリジリと闇をさぐってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父も腹立たしそうに血相けっそうを変えて立ち上った。そして母をえんから突き落し、自分も跣足はだしのまま飛び降りて母になぐりかかって来た。
途端とたん血相けっそうを変えた二人が、両方から一緒に飛びかかって、——が、其の場はほとけ手前てまえもあるからと、居合せた者が仲へ入ってやっと引分けている内に
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すッかり、血相けっそうが変って、又も帯の間の懐剣の柄に、手をかけて叫ぶのを、騒がず見下ろす老人
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すると今まで身動きもしなかった新蔵が、何と思ったか突然立ち上ると、凄じく血相けっそうを変えたまま、荒れ狂う雨と稲妻との中へ、出て行きそうにするじゃありませんか。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
血相けっそうを変えていた。峰淵、保利、荒木だの、左右に居た者が協力して、停めようとした。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
糟谷かすやころすの一ごんを耳にして思わず手をゆるめる。芳輔よしすけは殺せ殺せとさけんで転倒てんとうしながらも、しんに殺さんと覚悟かくごした母の血相けっそうを見ては、たちまち色をえてげだしてしまった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
お前さま先刻さきのほど、血相けっそうをかへてはしつた、何か珍しいことでもあらうかと、生命いのちがけでござつたとの。良いにつけ、悪いにつけ、此処等ここら人の土地ところへ、珍しいお客様ぢや。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
血相けっそうを変えて、激論を始めて、果は殴合なぐりあいまでして、遂に其友人とは絶交して了った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ここまではひと通りの挨拶であったが、彼女かれはたちまちに血相けっそうをかえて飛び付くように近寄って来て、主人の若旦那の左の腕をつかんだ。その大きい眼は火のように爛々らんらんと輝いていた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と君子さんが血相けっそうを変えて注進ちゅうしんした。お風呂場で洗濯せんたくをしていたお母さんは
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そいつも、ただてるんならまだしもだが、薬罐やかんうえつらかぶせて、立昇たちのぼ湯気ゆげを、血相けっそうえていでるじゃねえか。あれがおめえ、いい心持こころもちていられるか、いられねえか、まずかんがえてくんねえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
次郎君は血相けっそうをかえています。
決闘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
血相けっそうかえて、小山の素天すてッぺんへけあがってきた早足はやあし燕作えんさく、きッと、あたりを見まわすと、はたして、そこの粘土ねんどの地中に狼煙のろしつつがいけてあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、それから二十四時間後に、彼等は同じこの場所に、たがい血相けっそうをかえて「怪事件発生」をわめきあわねばならないなどとは、夢にも思っていなかったのである。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(杉の根がたに落ちていたのは、その時捨て忘れた縄なのです。)男は血相けっそうを変えたまま、太い太刀を引き抜きました。と思うと口もかずに、憤然とわたしへ飛びかかりました。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
切り口上にこう云ったかと思うと、かれは跣足はだしで表へとび出した。その血相けっそうが唯ならないと見て、居あわせた人達もあとから追って出たが、もう遅かった。大通りの向うは高輪たかなわの海である。
お杉のもその一例に過ぎないが、この年寄は下手へたをすると、ほんとにやりかねまじき血相けっそうなのだ。息子の眼から見ても、ただの仕ぐさとは見えないのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの金貨を残らずき上げるつもりで、わざわざ骨牌かるたを始めたのですから、こうなると皆あせりにあせって、ほとんど血相けっそうさえ変るかと思うほど、夢中になって勝負を争い出しました。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
恐ろしい血相けっそうで、望楼の登り口へかけよってくると、出合であいがしらに、上からゆうゆうと昌仙がおりてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今、その太兵衛と善助が、ただならぬ血相けっそうをもって近づいて来るやいな、のめるように自分の足もとへひざまずいたのを見て、あまり物事に驚かないたちの官兵衛も
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口ではののしり、顔には、今にも泣きだしそうな血相けっそうをもって、息もあえぎ喘ぎ追いついて来るのであった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こは心外なという血相けっそうを示して、亥十郎がふいにさえぎると、室殿むろどのはひややかに
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとここに熱烈な一僧があり、いのちがけで尼に恋し、ある夜、腕力にもかけまじき血相けっそうで、わが情慾を遂げさせて炎の苦患くげんを救えと迫った。すると慧春尼が云ったという。おやすいことです。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新之助の血相けっそうが、いつになく優しさを消していたからである。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
助広の鯉口をつかんで、凄い血相けっそう、一膝前へすりだしてきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鈴木杢之進もくのしんも、その血相けっそうには気をのまれた。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)