莞爾くわんじ)” の例文
欺かんとは不屆至極ふとゞきしごくなりと叱付しかりつければ天一坊は莞爾くわんじと打笑ひ越前は逆上ぎやくじやうせしと見えたり此頃まで三百俵の知行なりしが三千石の高祿かうろくになり當時町奉行を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
師弟共に黙して雨声うせいくもの多時、忽ち一人いちにんあり。高歌して門外を過ぐ。芳涯莞爾くわんじとして、諸弟子を顧みて曰、「せりや」と。句下殺人の意あり。
但馬守たじまのかみ莞爾くわんじわらつて、ひやく宗教しうけうせん道徳だうとくも、ひとつの死刑しけいといふものにはかなはない、これほど效果かうくわおほいものはもとむることが出來できないとおもつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しかも、若旦那わかだんな短銃ピストルつて引返ひつかへしたのをると、莞爾くわんじとして微笑ほゝゑんで、一層いつそうまた、婦人ふじんかた片手かたていだいた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこで東京上野からは正しく僅々きん/\五時間で八景の一たる景勝が連接されてゐると思ふと、莞爾くわんじとして滿足欣快の感のわきあがるのを覺えた。五時間である。僅に五時間である。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かはしつたな煮付て晩飯の代りに喰ふかよと鶴的莞爾くわんじとしイヤ喰て仕舞しまはぬ爲に買た今日馬を追て十八錢取つたが彼所あすこばゝの茶屋で強飯こはめしを二盆やつたから跡が五錢ほきやない是を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
階を登れば老侠客莞爾くわんじとして我を迎へ、相見て未だ一語をはさゞるに、満堂一種の清気てり。相見ざる事七年、相見る時ににはかに口を開き難し、斯般このはんの趣味、人に語り易からず。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
色こそせたれ黒のフロックコート端然と着なしたる、四十恰好かつこうの浅黒き紳士は莞爾くわんじとして此方こなたちかづきたる、れ交際家として牧師社会に其名を知られたる、永阪教会の長谷川なにがしなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
博士はかせ莞爾くわんじとして。
莞爾くわんじとしてきながら、よし/\それもよし、蒲鉾かまぼこ旅店はたごや口取くちとりでお知己ちかづき烏賊いか鹽辛しほから節季せつきをかけて漬物屋つけものやのびらでとほり外郎うゐらう小本こほん物語ものがたり懇意こんいなるべし。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たづねられければ平左衞門は夫はと吃驚仰天なせし樣子なりしが元來もとより大膽不敵だいたんふてきの曲者なれば莞爾くわんじと笑是は/\思ひがけなき御尋ね私し儀其儀そのぎは一向に存じ申さず候と然も知らぬていに申けるにぞ越前守殿此體を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ると、驛員えきゐん莞爾くわんじとして、機關車きくわんしやはうへ、悠然いうぜんとしてきりわたつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)