花瓶くわびん)” の例文
その中へはいると、いくつもならんでゐる大きな花瓶くわびんに、珊瑚さんごのやうな花と、黄金のやうな果物のなつてゐる木とがさしてあります。
湖水の鐘 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
お栄は姉から薔薇の花を受取つて、半分は勝手の棚の上に置き、半分は小さな大理石の花瓶くわびんに入れて叔母さんの位牌のそばへ持つて行つた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その先生の右手から、黄のあやを着た娘が立つて、花瓶くわびんにさした何かの花を、一枝とつて水につけ、やさしく馬につきつけた。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
が、便所の草履ざうりをはいて細工をしたり、匕首あひくちを聟の部屋の花瓶くわびんに入れるやうなことは、品吉でなければ出來ない藝當です。
よしや此縁このえんいとひたりとも野末のずゑ草花さうくわ書院しよゐん花瓶くわびんにさゝれんものか、恩愛おんないふかきおやさせてれはおなじき地上ちじやう彷徨さまよはんとりあやまちても天上てんじやうかなひがたし
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
七宝の花瓶くわびんに、女松がけてあつた。十畳ばかりの部屋の真中に、軍隊毛布が敷いてある。縁側の見える障子ぎはには、伊庭の机。そのそばに、小さい中国風な卓子が一つ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
……これから案内あんないしたがつて十二でふばかり書院しよゐんらしいところとほる、次は八でふのやうで正面しやうめんとこには探幽たんにゆう横物よこものかゝり、古銅こどう花瓶くわびんに花がしてあり、煎茶せんちや器械きかいから、莨盆たばこぼんから火鉢ひばちまで
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ああ云ふ作品は可笑をかしいかも知れない。しかしその可笑しいところに、く云へば阿蘭陀オランダ花瓶くわびんに似た、悪く云へばサムラヒ商会の輸出品に似た一種のシヤルムがひそんでゐる。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かべには春画しゆんぐわめいた人物画じんぶつぐわがくがかゝつて、其下そのした花瓶くわびんには黄色きいろ夏菊なつぎくがさしてある。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
小夜ふけて夜のふけゆけばきりぎりす黒き花瓶くわびんくらへるらしも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
思つた通り、天井坂は二枚ほど樂に開いて、其上には、眞つ暗な天井裏が口を開きます、下を見ると床の間の花瓶くわびんの上には、天井から落ちたらしいほこりさへ見えるのでした。
よしやこのゑんいとひたりとも、野末の草花さうくわは書院の花瓶くわびんにさゝれん物か。恩愛ふかき親に苦を増させて、我れは同じき地上に彷遑さまよはん身の、とりあやまちても天上はかなひがたし。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
中々なか/\とゞいたもので、土間どまひろく取つて、卓子テーブルに白いテーブルかけかゝつて、椅子いすりまして、烟草盆たばこぼんが出てり、花瓶くわびんに花を中々なか/\気取きどつたもので、菓子台くわしだいにはゆで玉子たまごなにか菓子がります
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ある時は小さき花瓶くわびん側面かたづらにしみじみと日の飛び去るを見つ
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
騷ぎにまぎれてまだそのまゝに放つて置かれて居るので、花瓶くわびんは倒れ、燭臺は曲り、まことに滅茶々々の姿ですが、血染めの棺だけ、もとのまゝ壇の上に据ゑられて居るのが
「あつしが居た部屋の花瓶くわびんの中ですよ」