繊弱かよわ)” の例文
旧字:纖弱
恩あるその人のむこうに今は立ち居る十兵衛に連れ添える身のおもてあわすこと辛く、女気の繊弱かよわくも胸をどきつかせながら、まあ親方様
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
もしも帆村が一段と声を励まして気を引立ててやらなかったら、繊弱かよわいこの一人娘は本当に気が変になってしまったかもしれない。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
銀子の牡丹は苦笑しながら、照れ隠しに部屋をあちこち動いていたが、風に吹かれる一茎のあしのように、繊弱かよわい心はかすかにそよいでいた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一人ひとり動いたあとは不思議なもので、御年も若く繊弱かよわい宮様のような女性でありながらも、ことに宮中の奥深く育てられた金枝玉葉きんしぎょくようの御身で
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この繊弱かよわき娘一人とり止むる事かなはで、勢ひに乗りて駆けいだす時には大の男二人がかりにてもむつかしき時の有ける。
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
最後に出て来たのは、二十二三歳と見える、繊弱かよわそうな青年、コバルト色の背広にラッパズボンを穿いた、年寄が見ると胸を悪くしそうな風体です。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
辛い人の世の生存ながらえに敗れたものは、はとのような処女の、繊弱かよわい足の下にさえも蹂み躙られなければならないのか。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
松島は梅子を引き起しつゝ、其の繊弱かよわ双腕りやうわんをばあはれ背後うしろとらへんずる刹那せつな、梅子の手は電火いなづまの如くひらめけり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
一席申し上げます、是は寛政十一年に、深川元町ふかがわもとまち猿子橋さるこばしぎわで、巡礼があたを討ちましたお話で、年十八になります繊弱かよわい巡礼の娘が、立派な侍を打留うちとめまする。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老妓の目に夫妻の金銭問題と見えたのは、事業と一家の経済との区別をたてたのを悪くとったのではあるまいか? 彼女も女である。ことに気は剛でも身体からだ繊弱かよわい。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼はどもる様に云った。この女こそ、かつてドーブレクの邸で、深夜代議士に向って利刄を振りかざし嫌悪の力を繊弱かよわき腕に籠めて一撃を加えんとしたあの女であった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
静子は繊弱かよわい女の身の弱い心から、殊に対手は今まで親切にして呉れた浅田ではあるし、声を挙げて女中を呼ぶ事は幾分躊躇されたので、黙って身を踠いていたので
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
……ナニ、無事ぶじか? 無事ぶじかではない。かんがえてたつてれます。繊弱かよわをんなだ、しか蒲柳ほりうしつです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それが繊弱かよわい、美しい、優しい皆様でありますだけ、それだけに、雄々しい吾児を戦場に見送る母親の気持よりもモットモット切ない思いで胸が一パイになるのであります。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこに自分の小さいながらも人生の血路を切り開いて行った健気けなげな態度、自分の繊弱かよわい性質をどうにかして支持して行った苦心、そこに立派に少年の一つの理想が握られていました。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼はまた、女の細っそりした繊弱かよわそうな頸筋くびすじや、美しい灰色の眼を思い浮かべた。
その名指されぬ良人の子を繊弱かよわい女手一つで育てて行かなければならない——これから先永い永い一生の間! あの女としては、そんな思いをして生きて行くよりも、自分の妻として
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「癒してやりたいけれども、病が重い上に天性あのような繊弱かよわい身で……」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこには繊弱かよわい女ばかりだった。二人の力で、女中をなぐり倒し、殿村夫人を縛る位のことは訳はなかったろう。そして置いて、品子も、アア可哀相に、娘も縛ったのだ。猿轡をかませたのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうしても倔強な男よりは繊弱かよわい女の方に想像されるのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「これ町人ども、見れば繊弱かよわい女を捕えて、何と致すのだ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この繊弱かよわき身一つのほかに無かりき。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
何者とはなんだ、悪い奴らだ、繊弱かよわい女を連れて来て、手前達てまいたちが何か慰もうと云うのか、ひい/\泣く者を
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は以前に節子をなだめたと同じようにして、復た彼女をなだめようとした。すると節子はすこし顔色を変えながら繊弱かよわい女の力で岸本の胸のあたりを突き退けた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夫婦は夫婦で相喰あいはみ、不潔物に発生する黴菌ばいきんや寄生虫のように、女の血を吸ってあるく人種もあって、はかない人情で緩和され、繊弱かよわ情緒じょうしょ粉飾ふんしょくされた平和のうちにも
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……同時にその二人が揃いも揃って、繊弱かよわい女の手で刃向はむかうべく、余りに恐ろしい相手である事を、知って知り抜きながらも必死と吾児を抱き締めつつ、ふるおののいていた筈である。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いざと言わば、この繊弱かよわい女の上へ、猟犬のように飛びかかろうとしましたが——
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
微かにお歯黒をつけた蚕豆の粒の一つと一緒に繊弱かよわい豆の虫が一匹落て出た。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
などいってる時は、ただ普通の、美しい繊弱かよわい女性とより見えないが、ペパアミントを飲んで、気焔きえんを吐いている時なぞは、女でいて活社会に奮闘している勇気のほどもしのばれると言った。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
無念の情は勃然ぼつぜんとして起これり。繊弱かよわ女子おんなの身なりしことの口惜くちおしさ! 男子おとこにてあらましかばなど、言いがいもなき意気地いくじなさをおもい出でて、しばしはその恨めしき地を去るに忍びざりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、夫の仇、倶に天を戴き得ない深讐綿々たる怨の敵……とは云え、繊弱かよわい女の身として、一ツには我児の愛に惹かされて、今後あるいは身を殺して仇のために左右せられんともかぎらない。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
繊弱かよわい女と侮った社長はすきねらって彼女に飛びかかった。彼女はがん! と彼の肩に一撃を与えた。次の瞬間に彼女は打ち下ろした右手を、それから左手を掴まれた。艶子は必死に振り放そうとした。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
わが繊弱かよわなるたましひよ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いやさ改心して頭髪あたまを剃こぼち、麻の法衣ころもに身をやつし、仏心ぶっしんになると云ったではござらぬか、その仏に仕える者が繊弱かよわい婦人をの如く縛って置くをなぜ止めん、なぜ助けん
一面は断崖海に臨みて足もたまらず。背後には繊弱かよわき女人と人馬を控へたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
繊弱かよわく低き下草したくさ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)