素裸すっぱだか)” の例文
秀吉のように、家康のように、武力を持っているわけでもなんでもなく、前に申す通り旃陀羅せんだらの子ですからな、ほんとうに素裸すっぱだかです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
眉山の家は本郷ほんごう春木町はるきちょうの下宿屋であった。学校から帰ると、素裸すっぱだかになって井戸の水を汲込くみこみつつ大きな声で女中を揶揄からかっていた。
素裸すっぱだかになって、ものを背負しょって、どうとか……って、話をするのを、小児こどもの時、うとうと寝ながら聞いて、面白くってたまらない。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たまたま、重囲をのがれ得た魏兵も、馬、物の具を振り捨てて素裸すっぱだか同様なすがたとなり、辛くも主将曹休につづいていた。そして後に
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間が懺悔して赤裸々せきららとして立つ時、社会が旧習をかなぐり落して天地間に素裸すっぱだかで立つ時、その雄大光明ゆうだいこうみょうな心地は実に何ともいえぬのである。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「だが、何だってお前たちは、この女を素裸すっぱだかでこんな所に転がしとくんだい。それに又何だって見世物になんぞするんだい」と云いかった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
丙「んでも初めは手拭を取られたんだそうですが、仕舞には残らず取られたと見えて素裸すっぱだかになって、男の方で恐入おそれいってヒイ/\云って居ますなア」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この声なら明けても差支さしつかえないと思って、身体からだ全体からしずくを垂らしながら、素裸すっぱだかでボールトをはずすと、はたして是公ぜこうつえを突いて戸口に立っていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お前さん、こんなとこで寝るのに着物を着て寝る者があるもんですか。ふんどし一筋だって、肌に着けてちゃ、せせられて睡られやしない、素裸すっぱだかでなくっちゃ……」
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「この日本の小猿めは、しぶとい奴ですよ。かまうことはありませんよ。素裸すっぱだかにして、皮の鞭で百か二百かひっぱたいてやれば、すぐに白状してしまいますよ」
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此時だ、此時彼は例の通り素裸すっぱだかで薩摩下駄をはき、手拭てぬぐいを持って、と庭に出る。日ざかりの日は、得たりやおうと真裸の彼を目がけて真向から白熱箭はくねつせんを射かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
百五十年ほど前に三州豊橋の町で、深夜に素裸すっぱだかではだしの大男が、東海道を東に向って走るのを見た者がある。非常な速歩はやあしで朝日のがるころには、もう浜名湖の向うまで往っていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かくの如く、素裸すっぱだか同様、身ひとつ引っさげてここへ出向いて来もしたのだ。わからんか、筑前どのの友情が、われわれの信義が
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
成人にしては小さく、子供にしてはやや大きいのが、素裸すっぱだかにされて、四ツ手に結えられて、松の枝から吊下げられている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
助け船——なんのって弱い音さ出すのもあって、七転八倒するだでな、兄哥真直まっすぐに突立って、ぶるッと身震みぶるいをさしっけえよ、突然いきなり素裸すっぱだかになっただね。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
検査しましたところ、軍帽も服も靴も、すべて員数が揃っております。つまり服装は全部ここに揃っているのであります。機関大尉は素裸すっぱだかでいられるように思われます
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
七時起床きしょう。戸を開けば、霜如雪しもゆきのごとし。裏の井戸側いどばたに行って、素裸すっぱだかになり、釣瓶つるべで三ばい頭から水を浴びる。不精者ぶしょうものくせで、毎日の冷水浴をせぬかわり、一年分を元朝がんちょうまそうと謂うのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
但し大した幅じゃない、一間には足りないんだけれども、深さは、と云う日になると、何とどうです、崩れ口のあぜの処に、漁師の子が三人ばかり、素裸すっぱだかで浸っていたろう。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「とてもくわしくは申し上げられませんが、早い話がお内儀さんと若い男を素裸すっぱだかにしましてな」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わっと、泣いて、師の上人へも、姫の父なる人へも、素裸すっぱだかな自分というものを目に見せてしまいたかった。そのうえで、今日までの、また今日以後の、自己の信行しんぎょうを語りたかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭の内に高低こうてい参差しんしとした十数本の松は、何れもしのび得るかぎり雪にわんで、最早はらおうか今払おうかと思いがおに枝を揺々ゆらゆらさして居る。素裸すっぱだかになってた落葉木らくようぼくは、従順すなおに雪の積るに任せて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
般若の面は相変らず、頭の上へのせて着物の一切を脱いでいるから、これも素裸すっぱだかであります。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこへはなしめましてね、夏のこッたし、わけはありません。仕事着一枚の素裸すっぱだか。七輪もなしに所帯を持って、上げた看板がどうでしょう、人を馬鹿にしやがって!——狐床。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、いきなり段の口へ、青天の雷神かみなりめったように這身はいみで大きな頭を出したのは、虎の皮でない、木綿越中の素裸すっぱだか——ちょっと今時の夫人、令嬢がたのために註しよう——唄に……
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
面白いものを小説の稗史はいしのと人が言うけれど、あれは本来こしらえもの、大人君子の興味に値するほどのものではないが、勝のおやじの自叙伝に至ると、真実を素裸すっぱだかに書いて、そうして
「へい、ですかい屑屋ですかい。お待ちなせえ、待ちねえよ、こううめえことをかんげえた。一番、こう、ふんどし切立きったてだから、恥は掻かねえ、素裸すっぱだかになって、二階へ上って、こいつを脱いで、」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この海女は一糸もつけない素裸すっぱだかで、その着物類をさんざんに取りまとめて、小脇にかいこんで、まゆをつり上げ、息をせき切って、せいせい言いながら、はたと自分に突き当りそうになって
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一同がかおを見合せた時に、けたたましい音を立てて梯子段を駈け上って来たのは、道庵先生であります。無論、素裸すっぱだかです。その時、先生は、いつもの先生とは違って、すさまじい権幕をして
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
素裸すっぱだかうるしを塗って、生きた人形になって山車だしへ乗っかって、曳かれる者も得意、曳く者も得意でいたところが、いいかげん引っぱってから卸して見ると、その人形が死んでいたという話があらあ。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
暁方あけがたになったら人も通るだろう、そうなるといいお内儀さんが素裸すっぱだかで立っているのを見過ごしもできめえから、何とかして上げるだろう、おさびしくもあろうがしばしの辛抱だ、幸いここに二歳にさいがいる
叔父さんかなんかのためによろいをこしらえていたが、その出来が遅いと言って怒られた、その晩、先生素裸すっぱだかで、黒の桔梗笠ききょうがさをかぶって、お盆の上へ蕎麦そばを一杯うやうやしく盛り上げ、そいつを目八分に捧げて
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)