空隙くうげき)” の例文
もっとも割れ目の空隙くうげきが厚くなるほど、これを充填した血液の水分は蒸発し、有機物は次第に分解変化して効力を失うであろうから
鐘に釁る (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
頭はえているし、心もしずかだった。ただひとところ、からだのどこかに蕭殺しょうさつと風のふきぬけるような空隙くうげきがかんじられた。
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一つの例を挙げると、一年は十二ヵ月であるのに、五節供をこれに配当すると、どこかに空隙くうげきが出来ないわけには行かぬ。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
並み木の間に見える長い四角な空隙くうげきが墓穴のように感ぜられる。昼間は醜く、夕方はものわびしいが、夜は陰惨となる。
書斎に独りいる時もそうだったが、小夜子の家で遊んでいる時にも、何か気持の空隙くうげきを感じないわけには行かなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
疾風しつぷう威力ゐりよくさへぎつてつゝんだほのほ退けようとしてその餘力よりよく屋根やね葺草ふきぐさまくつた。たゞち空隙くうげきつてます/\其處そこちからたくましくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
オテル・ド・ヸロンの鉄門が見え出すと妾は佐野の亢奮し、やつれた顔が車窓に映るような気がして、慌てて車内の空隙くうげきに現れた心影を妾は払いました。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
茶子ちゃこの足でひざを踏まれながら、前へ坐った丸髷まるまげ禿頭はげあたま空隙くうげきをねらいつつ鴈治郎の動きと福助のおかるを眺めることが、最も芝居を見て来たという感じを深くし
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
気絶する程に痛い足を十基米キロメートルも引摺り引摺り、又もあの鉄と火のざき地獄の中へ追返されるのかと思うと、自分自身が苛責さいなまれるような思いを肋骨あばら空隙くうげきに感じた。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
地震なえは、揺れるだけ、揺れてしまった方がよいのだ。地底に、空隙くうげきを、余さぬように」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸藩支配ノ地コトゴトクこれヲ朝廷ニ収メ、奥羽寒冷ノ地ノ民ヲ移シテ、空隙くうげきノ地ニミタスベシ、今、朝廷数十万が財ヲステ、開拓ノ資ニ供スルモ、得ルトコロ失フトコロヲ償ハズ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
物理的操作とはセコンドメートの口吻こうふんを借りたのである——そして、糞の分子と分子とがやや空隙くうげきを生ずる時において熱湯を——この時決して物惜しみしてチビチビあけてはならない
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
妙な空隙くうげきこしらえてあること、又遠からぬ将来、そこへ何物かの死体が隠されるであろうことを知ったなら、どんなに青ざめ、震え上ったことであろうと思うと、運転しながら、柾木は背中を丸くし
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すぐ左隣の「藪柑子集やぶこうじしゅう」を抽き出して、これもしばらくページをめくっていたが、やがてまた元の空隙くうげきへ押しこんだ。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
煙脂やにふさがらうとして羅宇らう空隙くうげきとほしてけぶりくち滿ちるときはつんとしたいや刺戟しげきはなかんずるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
旅は読書と同じく他人の経験を聴き、出来るだけ多くの想像をもって、その空隙くうげき補綴ほてつしなければならぬ。
人間の通れないようなゆがみ曲った空隙くうげきに石炭をギッシリと詰め込まなければならない。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
金属の molecular な空隙くうげきに潜入してこれを充填じゅうてんするのに好都合であろうと想像することができる。
鐘に釁る (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
新古二通りの地理学の空隙くうげきにはまりこんで、我らの海上の道は一旦はさらに跡づけ難くなったのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
電火の驚くべき器械的効果は、きわめて微細なる粒子が物質間の空隙くうげきを大なる速度で突進するによるとの考えは、近年のドルセーの電撃の仮説に似ている。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
粒の間の空隙くうげきがなるたけ少ないようになっているが、足で踏んだりすると、その周囲の所は少し無理がいって空隙が多くなり、近辺の水を吸い込むからです。
夏の小半日 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし実際壁の元子間に空隙くうげきが少しもなく、従って完全剛体であったら、音のエネルギーは通過し得ないであろう。そういう意味ではこれもやはりほんとうである。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
音響もまた原子の発散によるものと考えるから、音が壁を通過するのも壁の原子間に空隙くうげきがあるからだと言って説明している。これは今の学生の答案として見れば誤謬ごびゅうである。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
堅くてローラーの空隙くうげきを通過し得ない種子だけが裸にされて手前に落ちるのである。
糸車 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
従ってこれが数学的の取り扱いを許されるまでにはあまりに大きな空隙くうげきがある。
笑い (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)