かた)” の例文
先生はかたく信じてゐる。さうして此の信仰が、先生の作品をして荒唐無稽な物語におちいらしめず、吾々の想像が描出し得る神祕境を披瀝するのである。
記し終りてかたふうじ枕元なる行燈あんどうの臺に乘置のせおきやゝしばし又もなんだに暮たりしが斯ては果じ我ながら未練みれんの泪と氣を取直とりなほし袖もてぬぐひ立上り母の紀念かたみ懷劍くわいけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつかまた、馬霊教が世に出ると——かたく信じていて、あの奇異ふしぎな力が日に増し加わってゆくのでございますわ。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
気がついてみると、復一は両肘をしゃがんだ膝頭ひざがしらにつけて、かたにぎり合せた両手の指の節を更に口にあててきつく噛みつつ、衷心ちゅうしんから祈っているのであった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
處女をとめなる母わが子のむすめ被造物つくられしものにまさりて己を低くししかして高くせらるゝ者、永遠とこしへ聖旨みむねかた目的めあてよ 一—三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
火事の起こったのは粗相であろうし、本当に山影宗三郎様は、浅間の社地で太郎丸の徒党に、取り囲まれているに相違ないと、かたく信じているのであった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
最初の計画をかたく守って、唖者あしゃの如く口をつぐんだまま、遂に一言も物を云おうとはしませんでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かたく信じながらも、最後の一寸したつまずきのために、ハッキリと断言することが出来ないでいるのだ。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そうなったからと言ッて此方こっちは何もかたい約束がして有るんでないから、いやそうは成りませんとも言われない……嗚呼ああつまらんつまらん、幾程いくらおもい直してもつまらん。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
佃と生活できないと決心してから、伸子は、自分の精神と肉体とで得た経験をいたずらにしまいとかたく覚悟していた。ただの不幸や失敗には終らせまい覚悟であった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かたく信じて疑わず、身を処すること一にこの主義のごとくなるをる人々にとっては,かくのごとき主義をもって計画された社会制度が最上の組織でありうるけれども
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
白骨と為って後までも宝庫の鍵をかたく持ち、爾して髑髏の目を凹まして此の入口に見張って居るとは、宝に奇妙な因縁の生まれでは有ると、余は感慨に堪えぬ想いがした。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
病院の建物は事実かなり昔に建てられたものではあったが、彼はそれをピョートル大帝の造営であると考え、帝がポルタヴァの役の当時に住まわれたものとかたく信じていた。
泉原は女の不貞な仕打を憎んではいるけれども、そのような事になったのは彼女の虚栄からホンの出来心でやった事で、決して心から悪い女ではなかったと、今でもかたく信じている。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
少年は未来のことをかたく信じていますが、パトラッシュはさすがに犬ですから、現在うまい肉の御馳走にありつけないことには、将来にどんなたくさんの御馳走を思い浮べてみても
イエスの自覚を固めるとともに弟子たちの信仰をかたくせられたのです(九の七)。
されば「かた」とは後に実行さるべき事を今かたく約する所の確証である。十七章三節のヨブのねがいは、彼の死後において神が彼の無罪を証明する約束の確証を今賜わらんことを願うのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
これは諸君の力につこと大なりと思う。英気勃々ぼつぼつたる諸君の顔色に触れてみると、そういう勇気を持って居るのに相違ないとかたく信ずる。今日は諸君が勉強をするところの始めの日である。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
千恵はさうした気性をお母さまから受けついで、そればかりかその善いことをかたく信じさへして、おかげで少女時代を快活に満ち足りて過ごしてまゐりました。幸福に——とさへ言つていいでせう。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私は度々毛沼博士邸にいた婆やに会って、その真実性を確かめた。婆やがかたく証言する所によると、扉は間違いなく内側から鍵がかかっていたのだった。窓も勿論みんな内側から締りがしてあった。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
國民こくみん幸福かうふくはかることが出來できるものとかたしんじてうたがはぬのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「どうしてそんなかたい口がきけるの、ジエィン・エア。」
かたく信じまする」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああまでかたく云うからは兄さんの謀反は決定きわまった! 妹のわたしが恐ろしく、仲間の家を泊まり歩き、妾に逢うまい逢うまいとして、今日まで逃げ隠れしていた事も
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
望みとは未來の榮光のかたき期待にて、かゝる期待は神の恩惠めぐみと先立つ功徳より生ず 六七—六九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
おっつけ殿からの使者つかいが来て、芽出度めでたく帰参が適うものと、かたく信じて居るからでござるよ
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)