生籬いけがき)” の例文
考えた結果ガヴローシュはまず、生籬いけがきを乗り越すことをやめて、その下にもぐり込んだ。茂みの下の方に少し枝のすいてる所があった。
あの大雷雨の爲めにそこいらのほこりはいゝ工合に落着き、兩側の低い生籬いけがきや大きな立木などは、雨に元氣を囘復して、緑色に輝いてゐた。
人家の珊瑚木さんごのき生籬いけがきを廻って太田君の後姿うしろすがたは消えた。残る一人は淋しい心になって、西北の空を横眼に見上げつゝわたしの方へ歩いて行った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから、草原のなか、それから生籬いけがきに添って追い立てる。ついでなお、林の出っ張りから追い立てる。それからあそこ、それからここ……。
水松いちい生籬いけがきのあるところ、——そこには苔むした石でたたまれ、両側には紋章のついた柱の立っている正門があった。
晴れた日曜の午後の青山墓地は、其処そこの墓石の辺にも、彼処かしこ生籬いけがきうちにも、お墓まいりの人影が、チラホラ見えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
垣内は文字通り、垣で囲った土地の区劃ということだったにしても、それが今日の生籬いけがき建仁寺垣けんにんじがきのごとき、労費のかかったものであった気づかいはない。
垣内の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二、三間先の庭の生籬いけがきが、だしぬけにざわざわと音を立ててれだした。誰か外の方から揺すぶったらしい。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ずらずらと生籬いけがきのたぐいが続いていて、光はどこにも見えない。そう狭い道ではないが、近くに請負師の家があって、道の入口に古材がたくさん積み重ねてある。
記憶 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
こちら側には低い生籬いけがきがめぐらされているだけだったので、自分より身丈の高い芒の中をき分けて、その溝の縁まで行くと、立木の多い、芝生しばふや池などのある
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
生籬いけがきには清い野薔薇のばらが花を開いていた。青銅色の葉をつけてるかしの木立の陰に、小さなテーブルが設けられていた。三人の自転車乗りがその一つに陣取っていた。
このムクゲは落葉灌木で元来日本の固有産ではないが、今はあまねく人家に花木として栽えられ、また生籬いけがきに利用せられ挿木が容易であるからまことに調法である。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
生籬いけがきなどに籠めらるれど恨む顔もせず、日の光りも疎きあたりに心静けく咲きたる、物のあはれ知る人には、身を潜め世に隠れたるもなか/\にあはれ深しと見らるべし。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
生籬いけがきの間より衣の影ちらちら見えて、やがてで来し二十七八の婦人、目を赤うして、水兵服の七歳ななつばかりの男児おのこの手を引きたるが、海軍士官と行きすりて、五六歩過ぎし時
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
怠けものの配偶つれあひの肥つた婆さんは、これは朝から晩まで鞣革なめしがはをコツ/\と小槌で叩いて琴の爪袋を内職にこしらへてゐる北隣の口達者な婆さんの家の縁先へ扇骨木かなめ生籬いけがきをくゞつて來て
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
垣は生籬いけがきか四ツ目垣に限つた。建仁寺は竹の価が高くなつたので、今は贅沢物の一つのやうになつたが、この垣は余りに城壁的で好くない。自他の融合が十分に行かない。そこに行くと生籬は好い。
中秋の頃 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
うちつづく生籬いけがき
樹々は暗くなる程繁り、生籬いけがきや森は、葉が繁り、色が濃くなつて、間にある刈り取つたあとの牧場の太陽えた色と、いゝ對照をしてゐた。
「こいつは、そのへんの百姓家へ預けるか、さもなけりゃ、生籬いけがきの中へでもかくしといて、夕方持って帰るとしようや」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
みぞをまたぎ、生籬いけがきを越え、垣根かきねを分け、荒れはてた菜園にはいり、大胆に数歩進んだ。すると突然、その荒地の奥の高く茂ったいばらの向こうに一つの住家が見えた。
私の家の生籬いけがきの前に、そこいらの路地の中ではまあ少しばかり広い空地があったので、夕方など、よく女の子たちが其処そこへ連れ立ってきて、輪をつくっては遊んでいた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
自分の家の墓地から、三十間ばかり来たときに、美奈子はふと、美しく刈り込まれた生籬いけがきに囲まれた墓地の中に、若い二人の兄妹きやうだいらしい男女が、お詣りしてゐるのに気が付いた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
遊ぼうと言うので、宿屋を出て、駅の裏手にあるという妓楼ぎろうに出掛けて行った。宿のおんなに教えられた家は、暗い路の、生籬いけがきに囲まれた、妓楼らしくもないうらぶれた一軒屋である。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そして各地面は、壁や生籬いけがきやあらゆる種類の仕切りで、たがいに分かたれていた。
今一般に生籬いけがきに作られているカナメだとか、カナメモチだとかいっている者は実はカナメでも無ければまたカナメモチでも無く、これはよろしくアカメあるいはアカメモチと為すべき者である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
通りかゝりの百姓衆ひゃくしょうしゅうに、棕櫚縄しゅろなわ蠅頭はえがしらに結ぶ事を教わって、畑中に透籬すいがきを結い、風よけの生籬いけがきにす可く之にうて杉苗を植えた。無論必要もあったが、一は面白味から彼はあらゆる雑役ぞうえきをした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
とう/\陽ののぼる迄私は耕地や、生籬いけがき小徑こみちの縁を進んで行つた。爽やかな夏の朝だつたと思ふ。家を出るときに穿いた靴は直ぐに露に濡れた。
かささぎは、それでも、弾機ばね仕掛けのような飛び方をして逃げて行く。七面鳥は生籬いけがきの中に隠れている。そして、弱々しい仔馬こうまが、柏の木蔭に身を寄せている。
数本の松の木にちょっと一もとすすきをあしらっただけの、生籬いけがきもなんにもない、瀟洒しょうしゃな庭を少し恨めしそうに見やりながら、いつまでも秦皮とねりこのステッキで砂を掘じっていた。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ただ生籬いけがきで囲まれたばかりの庭もあって、通りがいかにもさわやかであった。その庭や生籬のうちに、彼の目にとまった小さな一軒の二階家があって、窓には燈火あかりがさしていた。
が、生籬いけがき越に見た丈では、それが何うしても、確められなかった。それかと云って、女中を連れている手前、それを確かめるために、墓地の廻りを歩いたりすることも出来なかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あらゆる生籬いけがきさくや塀や壁や通行止や罰金制札や各種の禁示フェルボートなど——すべて彼の自由を制限せんとし、彼の自由に対抗して神聖なる所有権を保証せんとするもの、そういう何物にたいしても
畑の中を、うねから畦へ、土くれから土くれへと、踏みつけ踏みつけ、まぐわのように、かため、らして行く。鉄砲で、生籬いけがき灌木かんぼくの茂みや、あざみくさむらをひっぱたく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
十六番目の銃眼の前には、イギリスの二つの花崗岩かこうがんの墓が据わっている。銃眼は南の壁にしかない。攻撃の主力はそちらからきたのである。その壁は外部は大きな生籬いけがきで隠されている。
その灌木の中から拔け出した瞬間、人々はいきなり目に入れるのだつた、先づ一めんに眞白な野茨の花の咲いてゐる生籬いけがきを、それからそれに半ば埋まつてゐる一つの小さなコッテエヂを。
巣立ち (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
墓地をしきつてゐる生籬いけがきの若葉が、スイ/\と勢ひよく延びてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
雀のれは生籬いけがきから生籬に飛びうつる。二人の猟師は、雀が眠ってでもいるかのように、背中を丸くして、そうっと近づいて行く。雀の群れはじっとしていない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
入り口には四輪の荷車があり、ホップの茎の大きな束や、すきや、生籬いけがきのそばに積んである乾草など、そして四角な穴には石灰がけむっており、藁戸わらどの古い納屋のそばにははしごが置いてあった。
墓地をしきっている生籬いけがきの若葉が、スイ/\と勢いよく延びていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
生籬いけがきに添って行く。そして、何度となく、木蔭にすわって、わたしの追いつくのを待っている。
高地の周囲には、イギリス軍はここかしこに生籬いけがきを切り倒し、山楂さんざしの間に砲眼をこしらえ、木の枝の間に砲口を差し入れ、荊棘いばらのうちに銃眼をあけていた。その砲兵は茂みの下に潜められていた。
ただ生籬いけがき一重でへだてられてるばかりだった。