猛々たけだけ)” の例文
また、じりじりとあせってもならぬ。姿こそ、変生女性へんじょうにょしょうよそおっては居れ、胆は、あくまで猛々たけだけしいわたしでなければならぬ。眠ろう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
わした殿輩に対して、詫びをする覚悟でおるのだ。すこしは、声も尖ろう、眼いろも猛々たけだけしゅうなるは、むしろ兄の愛情というものだ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊勢物語ではないけれども、昔男ありけり、性猛々たけだけしく、乞食を笑いつつ乞食よりもおとれる貧しき生活をすとて、女に自殺せばやと誘う。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
盗人ぬすっと猛々たけだけしいとは貴殿のことだ、人の大事の娘をかどわかしておきながら、年はどうの、名は何のと……人を食った挨拶」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一度などは死にかかっているくまを生捕りにしたとて毎度自慢が出たから、心も十分猛々たけだけしいかと言うに全くそうでもない。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
青大将にやまかがし、ないしは黒蛇またはまむし、どんな猛々たけだけしい毒蛇でも、妾が使えばおとなしくなり、自由自在に働きます。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「盗人猛々たけだけしとはてめえのこったぞ。いいか、現におめえは、おいらの預けたその箱をさらって、ドロンをきめこみ、いいか、一目山随徳寺いちもくさんずいとくじと——」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いかに猛々たけだけしい動物でも自分の児をかわいがられると穏やかになるものである。母親は頭をあげて礼を言った。
「ほほう、申したな。笑おうぞ、笑おうぞ、そのように猛々たけだけしゅう申さば、賄賂わいろ止めのこの制札が笑おうぞ」
年中澄むこともなく泥土に汚れている水は、先日来の氾濫はんらんのなごりを見せて一層重々しく濁り、一層猛々たけだけしく押しだして行った。海水とは容易に混ろうとしない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
娘を殺したのがお狩場の四郎だったら、飛びかかって、噛み殺しもし兼ねまじき、動物的な本能の怒りが、この老人を一瞬この上もない猛々たけだけしいものに見せるのです。
そして、むかしあの猛々たけだけしいライオンが、おおらかな気持ちで、羊をだいてやったように、彼はよく子供をひざにのせ、何時間もぶっつづけに足で揺りかごをゆすったものだった。
その翌日になると、彼の政務の執行力は、論理のままに異常な果断を猛々たけだけしく現すのが常であった。それは丁度、彼の猛烈な活力が昨夜の頑癬に復讐ふくしゅうしているかのようであった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
私は、それをくと、もう、むらむらとなった。そして、腹の中で、「何をかしやがる。盗人ぬすっと猛々たけだけしいとは、その言い分である」と、思ったが、それはじっとおさえて口には出さず
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
急に向うの築土ついじの陰で、怪しいしわぶきの声がするや否や、きらきらと白刃しらはを月に輝かせて、盗人と覚しい覆面の男が、左右から凡そ六七人、若殿様の車を目がけて、猛々たけだけしく襲いかかりました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ああ、伸子さんは接吻のしようもしらない! そのひとことが、あんなに自分を猛々たけだけしくした。蜂谷に深い傷をつけようとするように唇を圧しつけさせた——そこに伸子のおどろきがある。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かくまでに女のおもいは猛々たけだけしいものであったか、何者にも恐れず、また、何者にもりようとしない女の心の烈しさ、これは結局、女のまことがこうまで女を走らせているのだ、そこにはうそも
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そういう作品の演奏を指揮するためには、厳格で猛々たけだけしい青年音楽長が、あたかもベートーヴェンやワグナーの軍隊をでも奮起させるかのように、ミケランジェロ風の身振りをしてあばれわめいていた。
清盛は法印を前に置いて猛々たけだけしい声でいうのであった。
猛々たけだけし群虎の月にうそぶくをけたるがひとり澗水たにみづなめぬ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
侵入軍の総勢は、二百人余と思われたが、いずれも甲冑かっちゅうに身を固め、駿足の馬にまたがっているので、その勢いの猛々たけだけしさは、教団の人々の比ではない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを、あの僧の如きは、持って生れた痼疾こしつのように、時を選ばず、所をきらわず、猛々たけだけしいことのみ吠えておる。——覇気はきがありすぎて好きになれぬ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「美しさ優しさ」を軽蔑誤解して、口に猛々たけだけしいことをいうのは笑止なことだ。
平凡な女 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
すると、一瞬の間、急に秋蘭の興奮した顔が、屈折する爽やかなスポーツマンの皮膚のように、美しく見え始めた。彼は今は秋蘭の猛々たけだけしい激情に感染することを願った。彼は窓の下を覗いてみた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
もう正成どのが、われらの笠置参向かさぎさんこうはばめるなら、一戦も辞すまいなどと、声も猛々たけだけ、言いののしる有様だ。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藪原長者の大館おおやかたは木曽川に臨んだ巨巌きょがんの上にとりでのように立っていた。すそは石垣で畳み上げ、窓はあかがねの網を張り、おおかみより猛々たけだけしい犬の群は門々の柱につないであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すがたに似あわない猛々たけだけしい声であって、三度目の一かつは殊さら辺りの闇を払うように颯爽としていたが、すでに相手のかっこうで頭から敵を呑んでいた又八は
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丸太まるた町あたりと思われる辺から、人をとがめる犬の吠え声が、猛々たけだけしくひとしきり聞こえて来たが、拍子木の音の遠のいたころに、これも吠え止めてひっそりとなった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして猛々たけだけしい心を固めながら、瞼は反対に、止めどない涙を子らしく草にこぼしているのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「賊はおのれじゃ! 猛々たけだけしい奴め! ……場合によっては大音を上げて、町の人々を起こすぞよ!」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その底にすむ金色こんじきひとみ、かしらの逆羽さかばね、見るからに猛々たけだけしい真黒な大鷲おおわしが、足のくさりを、ガチャリガチャリ鳴らしながら、扇山せんざん石柱いしばしらの上にたって、ものすごい絶叫ぜっきょうをあげていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猛々たけだけしいケダモノを取巻いたというのさ」
猿ヶ京片耳伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
花世のあの優雅しとやかな女らしさとは相違して、どこか猛々たけだけしく、気持も非常に強いらしい。しかもこの女特有な頭脳あたまのよい明敏さもまた、そのキビキビした言葉つきによく出ている。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耳の濁りという。古今に通ぜぬくせに、我意ばかり猛々たけだけしい。これを情操の濁りと申す。日々坐臥ざがの行状は、一としてきよらかなるなく、一として放恣ほうしならざるはない。これ肉体の濁りである
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猛々たけだけしく婆は白髪しらがの光る首を横に振ってさけんだ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠くのほうで猛々たけだけしい啼き声がしているのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土や水と闘うので、気はあらく猛々たけだけしくなった。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)