片言かたこと)” の例文
それに、まだ日本へ来たてだつていふんだけど、誰に教はつたか、片言かたことの日本語を時々使ふの。だから、なほ、悧巧には見えないわ。
モノロオグ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「アガンナサイ、アンタ。」とか、ただ「アンタ、アンタ。」とか、時々は「ホントニ、イロオトコダネ。」とか、そんな片言かたことであった。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
乳母うばの六条のひざにのって、いつも院の御所ごしょ出仕しゅっしする時と同じように、何もしらないで片言かたことを言ってわしに話しかけていました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あのちっちゃなぼっちゃんは、何時間ものあいだ、じぶんのかごのそばにすわって、かわいい片言かたことでおしゃべりをしているではありませんか。
しかしこの女のここへ来たのは物好きだけではなさそうである。神父はわざと微笑しながら、片言かたことに近い日本語を使った。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
片言かたことをいふ間斷食だんじきを守る者も、舌ゆるむ時至れば、いかなる月の頃にてもすべての食物くひものを貪りくらひ 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それであればこそ路傍ろぼう耳朶じだに触れた一言が、自分の一生の分岐点ぶんきてんとなったり、片言かたことでいう小児しょうにの言葉が、胸中の琴線きんせんに触れて、なみだの源泉を突くことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ヘンリーは片言かたことながらも日本語を話すので、半七は参考のためにいろいろの質問を提出したが、双方の言葉がよく通じないので、要領を得ないことが多かった。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「私は小兒こどものおしやべりは好かないから、」と彼はつゞけた。「だつて、私のやうな年とつた獨り者にはあれ達の片言かたことから來る愉快な聯想なんてあるもんですか。 ...
負ケズ嫌イナノデ、家ヘ来テカラ勉強シテフランス語ヤ英語モ片言かたことグライハシャベレルヨウニナッタ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
老人は口をきく力もなく、みょうな片言かたことをいいながら、ふるえる手で、室内を指さしています。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
文治はもう此の島人を逃がしては此の島を出る機会おりがないと思いまして、いろ/\上手を使って、話もしかと分りませぬが、片言かたことまじりで交際つきあいながら、彼方かなた此方こなた経廻へめぐって
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若者わかものは、片言かたこときもらすまいと、みみをかたむけていましたが、天女てんにょが、羽衣はごろもなければてんかえれぬといったので、これはなんたる自分じぶんにとって、しあわせなことであろう。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
南枝なんし梅花うめは誘っても、片言かたこと初音はつねの声は、まだ稀にしか聞かれないが、野路や山路の雪が解けると共に、めっきりえ出してくるのが、今、天下にあまねき武者修行と称する客で
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは広東語カントンごだ。もっとも、博士がまだ片言かたこともいえないときに、広東人の金氏が拾い上げて、博士を育てたんだからねえ、赤ちゃんのときに広東語をしゃべったのは、あたり前だ」
林檎りんごのようなほおをし、片言かたこと交じりにしゃべりさえずり笑い、くちづけをすればそのいきいきした肉体が感ぜらるる。ところが彼が見捨てられた時、どうなりゆくか考えてみたまえ。
多少の片言かたことくものだから、婆様をつかまえてゴシンゾと言ってみたり、漁師の真黒なのをダンナサマと呼びかけたりするものだから、それが一層の愛嬌になってしまいました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巴里パリにいたとき、何度かこんな片言かたことを云っていたが、京都でこんな言葉を使うとはおもいもよらないことだ。関西に住み馴れた仏蘭西フランス人なのだろう。橋を渡ってさっさと改札口へ行った。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
皆が食事をするテーブル、彼が隠れて遊ぶ戸棚とだな、彼がはい回るひし形の床石ゆかいし、おかしな話や恐ろしい話を彼にしてくれる種々なしわのある壁紙、彼だけにしか分らない片言かたことをしゃべる掛時計。
もちろん会話などは、片言かたこと一つ語るのを許されません。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
細身ほそみの秒の指のおと、片言かたことまじりおぼつかな
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
六つでまだ片言かたことを仰言るの?
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
片言かたことまじり
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
先に立ってゆく三人はしきりに小声で話していたが、やがてその声が高くなって、ロイドは片言かたことで云った。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信長の顔いろ、片言かたこと、気色など、鏡にうつして見るように、遠くにいてもわかっていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片言かたことは片言なりに美しさのある場合もあるけれども、男が使うような荒い言葉や下品な文句を、それと知らないで、しゃべっているのは、彼女の表情とちぐはぐな滑稽なものを感じさせた。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
「どうも、今更、英語でもあるまいなんて、時々思うんだが、やつぱり、近頃は、片言かたことぐらい喋れんと不自由でね。元来、勉強ぎらいと来てるんだから、先生、ひとつ、よろしく頼みますよ」
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
親は子供の片言かたことを聞きてまづ喜び、後これを眞似て子供をあやし眠らしむ
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
大商人の隣席にいた赤髯あかひげが、片言かたことの日本語でほめました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
細身ほそみの秒の指のおと、片言かたことまじりおぼつかな
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
大人たいじんの莨の乏しいことは私たちも知っていると、彼は云うのである。実際、戦地では莨に不自由している。彼はさらに片言かたことの日本語で、こんな意味のことを云った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふと珍しく思ったのは、ここで初めてまだ片言かたことの今年のかわずの声を聞いたことである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
短檠たんけいの光は時折、烏賊いかのような墨を吐き、風の間に、どこかで片言かたこと初蛙はつかわずが鳴く。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、片言かたことのマレー語で、もうここらでいいから降ろしてくれと言った。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ヨハンは片言かたことの日本語で
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)