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溪河
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たにがは
二人分、
二枚の
戸を、
一齊にスツと
開くと、
岩膚の
雨は
玉清水の
滴る
如く、
溪河の
響きに
煙を
洗つて、
酒の
薫が
芬と
立つた。
手づから
之をおくられた
小山内夫人の
袖の
香も
添ふ。
同じ
年十一月のはじめ、
鹽原へ
行つて、
畑下戸の
溪流瀧の
下の
淵かけて、
流の
廣い
溪河を、
織るが
如く
敷くが
如く、もみぢの、
盡きず、
絶えず、
流るゝのを
見た
時と、——
鹽の
湯の
やすくて
深切なタクシイを
飛ばして、
硝子窓に
吹つける
雨模樣も、おもしろく、
馬に
成つたり
駕籠に
成つたり、
松並木に
成つたり、
山に
成つたり、
嘘のないところ、
溪河に
流れたりで
其の、いま、
鎭守の
宮から——
道を
横ぎる、
早や
巖に
水のせかるゝ、……
音に
聞く
溪河の
分を
思はせる、
流の
上の
小橋を
渡ると、
次第に
兩側に
家が
續く。——
小屋が
藁屋、
藁屋茅屋が
板廂。
唯見ると、
渡過ぐる
一方の
岸は、
目の
下に
深い
溪河——
即ち
摺上川——の
崖に
臨んで、づらりと
並んだ
温泉の
宿の
幾軒々々、
盡く
皆其の
裏ばかりが……
三階どころでない、
五階七階に、
座敷を
重ね