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母樣
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かあさま
丁度自分が、お
祖父樣や
父樣や
母樣や
姉樣と
一所に、
夕餐の
團欒の
最中に、此の聲が起るのだから
耐らない。
それでも
母樣私は
何處へか
行くので
御座りましやう、あれ
彼處に
迎ひの
車が
來て
居まする、とて
指さすを
見れば
軒端のもちの
木に
大いなる
蛛の
巣のかゝりて
旦那さまの
思ひも、
私の
思ひも
同じであるといふ
事は
此子が
抑も
教へて
呉れたので、
私が
此子をば
抱きしめて、
坊は
父樣の
物ぢやあ
無い、お
前は
母樣一人のだよ
門をしめて
内へ
入れずに
泣かしてやらん、と
言ふを
止めて、
其樣な
意地わるは
仰しやるな、
母樣がお
聞にならば
惡るし、
夫れでも
姉樣たちは
自分ばかり
演藝會や
花見に
行きて
よし
歸らずとて
彼地はお
前樣のお
邸ゆゑ、
成長なり
給ふまでのお
留守居、
今もお
連れ
申たけれど
夫こそ
淋しく、
直ぐ
嫌やに
成りて
母樣こひしかるべし、
何も
柔順しう
成長なり
給へと
鎌倉へ
行かばお
歸りの
無きに
極まりたれば、
殘りて
淋しからんより
我れも
一處にゆき、
我れも
此邸に
歸るまじ、
父樣も
嫌や
母樣も
嫌や、
誰れを
捨てヽも
諸共に
行かんと
計り、
令孃は
靜かに
諭して