橋梁きょうりょう)” の例文
ある一つの大きな全体の二つの部分であってその両者の間をつなぐべき橋梁きょうりょうの存在が可能であるということが想像されて来るのである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、そういう都市の水は、自分の知っている限りでたいていはそこに架けられた橋梁きょうりょうによって少からず、その美しさをがれていた。
松江印象記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
橋梁きょうりょうや道路に関する公用語では、それらの低部や鉄格子に Cassis(訳者注 ラテン語にてはくもの巣という意味になる)
明治四十一、二年のころ隅田川すみだがわに架せられた橋梁きょうりょうの中でむかしのままに木づくりの姿をとどめたものは新大橋しんおおはし千住せんじゅの大橋ばかりであった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今では人家も橋梁きょうりょうも鋪装道路も皆新しくなり、しかもそのわりに人通りが閑散で、何となく新開地の気分がするのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いやに四角ばった殺風景な船で、甲板の上には橋梁きょうりょうのようなものが高く組んであり、後甲板は何にもなく平らであった。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
『著者は田舎を愛すれども、都会を捨つる能わず、心ひそかに都会と田舎の間に架する橋梁きょうりょうの其板の一枚たらん事を期す。』
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
歳子の兄の曾我弥一郎と、歳子の婚約者の静間勇吉とは橋梁きょうりょうと建築との専門の違ひはあるが、同じ大学の工科の出身で、永らく欧洲に留学してゐた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
新旧両時代の橋梁きょうりょうたるべき魂、しかも生れながらにしてそうある魂、その魂の脈膊は、実にジャン・クリストフのうちに聴き取り得らるるのである。
鉄道が不通になったとか、広島の橋梁きょうりょうが殆ど流されたとかいうことをきいたのは、それから二三日後のことであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
厚く人民の迷惑にならないよう取り計らうことが肝要であると仰せられ、道路橋梁きょうりょう等のやむを得ない部分はあるいは補修を加うることがあろうとも
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人々はなんら顧みるところなく祖先が遺したものを日に日にこわしつつあるのだ。建築から、器物から、衣服から、そうしてあの橋梁きょうりょうや石垣に至るまで。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
吾人の知識とその理との間の海峡に架すべき橋梁きょうりょうなきをもって、吾人は言語道断、言亡慮絶の点において、自然にその理を感受するよりほかなしとなす。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そこにも、多くの石工いしくが、外廓そとぐるわの石垣を築いていた。搦手からめて橋梁きょうりょうや、濠をさらう工事にもかかっている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私が知識そのものではなく道徳そのものではない。それらは私と外界とを合理的につな橋梁きょうりょうに過ぎない。私はこの橋梁即ち手段を実在そのものと混同することが出来ないのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この公用とは所謂いわゆる公儀こうぎ(幕府のことなり)の御勤おつとめ、江戸藩邸はんていの諸入費、藩債はんさいの利子、国邑こくゆうにては武備ぶび城普請しろぶしん在方ざいかた橋梁きょうりょう堤防ていぼう貧民ひんみんの救済手当、藩士文武の引立ひきたて等、これなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
更に進んで運河沼沢しょうたく噴水橋梁きょうりょう等の細節さいせつにわたってこれを説き、なおその足らざる処を補わんがために水流に映ずる市街燈火の美を論じている。
傾いた夏のざしで空は夢のようにぼうと明るかった。橋梁きょうりょうくずちず不思議と川の上に残されていた。その橋の上を生存者の群がぞろぞろと通過した。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
満洲の重要な橋梁きょうりょうの東橋脚きょうきゃくから西橋脚の方へ向け、この赤外線を通し、西の方に光電管をとりつけ、光電管から出る電気で電鈴でんれいの鳴る仕掛しかけをおさえておく。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
城の塁濠るいごうほう六町、市街の橋梁きょうりょう巷路こうじとあわせて、多くは前の城主松平伊豆守の繩取なわとりによるとか、織物農穀のうこくの産業もゆたかで、川越の城下の繁昌はなかなかであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも少しずつ違った特徴をもった植物の大家族といったようなものが数々あり、しかも一つの家族から他の家族への連鎖となり橋梁きょうりょうとなるかと思われるようなものにも乏しくない。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おそらく百本杭ひゃっぽんぐいは河水の氾濫はんらんからこの河岸かし橋梁きょうりょうを防ぐ工事の一つであろうが、大川橋(今の吾妻橋あずまばし)の方からやって来る隅田川の水はあだかも二百何十年の歴史を語るかのように
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まず画面の下部に長き橋梁きょうりょうななめよこたはらしめよ、しかして淋しき夜駕籠よかご頬冠ほおかむりの人の往来ゆききを見せ、見晴らす水面すいめんの右のかたには夜の佃島を雲の如く浮ばせ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
格納庫かくのうこのように巨大な、あの第九工場の内部へ入って、高さが百尺近い天井を見上げると判るのだが、そこにはたくましい鉄骨で組立てられた大きな橋梁きょうりょうのような形の起重車きじゅうしゃ
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
橋梁きょうりょう交通の改善や、風紀問題などの市政改善のことよりも、もっともっと、越前守自身にとっての、致命的な宿題に、ここ一月余りは、身も痩せるような、蔭の苦心をしているのである。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは焼夷弾しょういだん攻撃に対して鉄壁の陣をいたというのであろうか。……望遠鏡のおもてに、ふと橋梁きょうりょうが現れる。豆粒ほどの人間の群が今も忙しげに動きまわっている。たしか兵隊にちがいない。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
水中に飴のように曲って落ちこんだ橋梁きょうりょうの間から下を見て、まだそこにプカプカしている土左衛門や、橋の礎石の空処に全身真赤に焼けただれて死んでいる惨死者の死体を見るのであった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
颱風で橋梁きょうりょうが流れたためでしょうか、それとももしや途中原子爆弾に……。
虫喰い算大会 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)