棟割長屋むねわりながや)” の例文
だが、房枝には、こういう建てこんだ棟割長屋むねわりながやが、ことのほかなつかしかった。それは房枝が、まだ見ぬ両親の家を思い出したからだ。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
学校といえば体裁ていさいがいいが、実は貧民窟ひんみんくつ棟割長屋むねわりながやの六畳間だった。すすけた薄暗い部屋には、破れたはらわたを出した薄汚ないたたみが敷かれていた。
かくの如き溝泥臭どぶどろくさい堀割とくさった木の橋と肥料船や芥船ごみぶね棟割長屋むねわりながやなぞから成立つ陰惨な光景中に寺院の屋根を望み木魚もくぎょと鐘とを聞く情趣おもむき
あっしンとこなんざ、若旦那わかだんなにおいでをねがうような、そんないた住居すまいじゃござんせん。火口箱ほくちばこみてえな、ちっぽけな棟割長屋むねわりながやなんで。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
四谷の菱屋ひしや横町に、安政のころ豆店まめだなという棟割長屋むねわりながやの一廓があった。近所は寺が多くて、樹に囲まれた町内にはいったいに御小役人が住んでいた。
もっとも彼等の貧困は棟割長屋むねわりながやに雑居する下流階級の貧困ではなかった。が、体裁を繕う為により苦痛を受けなければならぬ中流下層階級の貧困だった。
御前ごぜんのお目にとまった、うたいのままの山雀は、瓢箪を宿とする。こちとらの雀は、棟割長屋むねわりながやで、樋竹といだけ相借家あいじゃくやだ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又「届けるって九尺弐間くしゃくにけん棟割長屋むねわりながやへ君の御尊来ごそんらいは恐入るから、僕が貰いに来てもよろしい」
おな新開しんかいまちはづれに八百髮結床かみゆひどこ庇合ひあはひのやうな細露路ほそろぢあめかさもさゝれぬ窮屈きうくつさに、あしもととては處々ところ/″\溝板どぶいたおとあなあやふげなるをなかにして、兩側りようがはてたる棟割長屋むねわりながや
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
裏町の棟割長屋むねわりながやの一軒を——一軒といったって、たった二の汚ねえ汚ねえ家だったが、それでも小屋の親分から、別離わかれもらった二分か三分の銭があったので、そこを借りることは出来たのさ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
容貌きりやうが能く音羽小町と綽名あだなにさるゝ程にてあればうぢなくて玉の輿に乘る果報くわはう愛度めでたく其日消光くらしの賣卜者の娘が大家のよめに成なら親父殿まで浮び上り左團扇ひだりうちはに成で有らうと然ぬだに口やかましきは棟割長屋むねわりながや習慣ならひとて老婆もかゝも小娘もみな路次口に立集たちつどかしましと讀むじだらくの口唇くちびるかへ餞舌おちやつぴいねぐらもとむる小雀の群立騷むらだちさわぐ如くなり斯くとは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あがって見ると、九尺二間くしゃくにけん棟割長屋むねわりながやゆえ、戸棚もなく、かたえの方へ襤褸夜具ぼろやぐを積み上げ、此方こちらに建ってあります二枚折にまいおり屏風びょうぶは、破れて取れた蝶番ちょうつがいの所を紙捻かんぜよりで結びてありますから
一體いつたい三間みまばかりの棟割長屋むねわりながやに、八疊はちでふも、京間きやうま廣々ひろ/″\として、はしら唐草彫からくさぼりくぎかくしなどがあらうとふ、書院しよゐんづくりの一座敷ひとざしきを、無理むり附着つきつけて、屋賃やちんをおやしきなみにしたのであるから、天井てんじやうたかいが
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)