昨宵ゆうべ)” の例文
晴れ晴れした顔をして湯から帰って来た浅井は、昨宵ゆうべの食べ物の残りなどで、朝食をすますと、じきに支度をして出て行った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「さうかも知れない、だが少くともオペラぢやないね。まあ、早く言つてみれば行進曲マアチかな。昨宵ゆうべなんか夜つぴて我鳴り通しなんだからね。」
貞之進が黒の羽織を着て居るのに心附き、あなたのことではありませんよと、はたいた烟管きせるをふっと吹き、昨宵ゆうべも逢た癖にと婢が云うのをきかぬふりで
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
月「昨宵ゆうべね少し飲過ぎてお客のお帰んなすったのも知らないくらいに酔いつぶれたが、いつものきまりだから仕方がない」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さむれば昨宵ゆうべ明放あけはなした窓をかすめて飛ぶからす、憎や彼奴あれめが鳴いたのかと腹立はらだたしさに振向く途端、彫像のお辰夢中の人にははるか劣りて身をおおう数々の花うるさく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なんぼ日曜日でもと寝坊が過ぎるというと、「昨宵ゆうべは猫のお産で到底寝られなかった、」といった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
日間ひるま通る時、彼はつねに赭くうなれた昨宵ゆうべの花の死骸を見た。学校の帰りが晩くなると、彼は薄暗い墓場の石塔や土饅頭の蔭から黄色い眼をあいて彼をのぞく花を見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
昨宵ゆうべもね、母が僕にさう云ふんだ。君が楠野さん所へ行つた後にだね、「肇さんももう廿三と云へや子供でもあるまいに姉さんが什麽どんなに心配してるんだか、眞實ほんたうに困つちまふ」
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
遊女おいらんに嫌われる、と昨宵ゆうべ行きがけに合乗俥あいのりぐるまの上で弦光がからかったのを、酔った勢い、ほろの中で肌脱ぎに引きかなぐり、松源の池が横町にあるあたりで威勢よく、ただし、竜どころか
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前も旦那に一味して、寝さすまいの算段か。昨宵ゆうべ一夜は、まんじりと、寝ぬのは知れたに、がたびしと、その開け方の訳聞かふ。やつとの事で、とろとろと、今がた寝かけた眼が醒めた。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
いかにも落胆がつかりしたやうな様子し乍ら、奥様は丑松の前にすわつた。『斯様こんなことになりやしないか、と思つて私も心配して居たんです。』と前置をして、さて奥様は昨宵ゆうべの出来事を丑松に話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
昨宵ゆうべ夜中よじゅう枕の上で、ばちばち云う響を聞いた。これは近所にクラパム・ジャンクションと云う大停車場おおステーションのある御蔭おかげである。このジャンクションには一日のうちに、汽車が千いくつか集まってくる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お庄ちゃんも昨宵ゆうべから来て待っていますのに……。」と、叔母は言いかけたが、叔父は深く気にも留めなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母「あゝいう馬鹿野郎だもの、われが送ると云えばみんなが送ると云うから汝けえれてえに、昨宵ゆうべいったこと分らなえか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、昨宵ゆうべどこかで見た事まで引張り出さうとする人があるかも知れないが、そんな事はまあうでもよい。
昨宵ゆうべもね、母が僕にさう云ふんだ。君が楠野さんとこへ行ツた後にだね、「肇さんももう二十三と云へや小供でもあるまいに姉さんが什麽どんなに心配してるんだか、真実ほんたうに困ツちまふ」
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「会ったよ、会ったよ、紅葉に会って来たよ。徳太郎なかなか話せる。すこぶる快男子だ。昨宵ゆうべ徹宵よっぴて話して、二時まで大気焔だいきえんを挙げて来た。紅葉は君、実にえらい。立派な男だ!」
日本国の古風残りて軒近く鳴く小鳥の声、これも神代を其儘そのままつまらぬものをも面白く感ずるは、昨宵ゆうべあらし去りて跡なく、雲の切れ目の所所、青空見ゆるに人の心の悠々とせし故なるべし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あの男も……惣吉様ちっせえだけんども怜悧りこうだから矢張やっぱり名残い惜がって、昨宵ゆうべおいらは行くのはいやだけんども母様かゝさまが行くから仕方がねえ行くだって得心したが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お今は昨宵ゆうべ一晩自分の身のうえなどを考えて、おちおち眠られもしなかった体の疲れが、白粉を塗った、荒れた顔の地肌にも現われていた。目のうちもうるんでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
或時飯田町の三畳の書斎を訪ずれると、昨宵ゆうべ嵯峨さがが来て『罪と罰』という露西亜ロシアの小説の話をしたが、嵯峨の屋がモグモグしながら妙な手附きをしてはなすのが実に面白かったといった。
多「それまアたのしみにするだが、あんた昨宵ゆうべも人間は老少不定ろうしょうふじょうだなんていわれると心持よくねえからね」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
八幡の鳥居のそばまで来て別れようとした時、何と思った乎、「イヤ、昨宵ゆうべは馬鹿ッ話をした、女の写真屋の話は最う取消しだ、」とニヤリと笑いつつ、「飛んでもないお饒舌しゃべりをしてしまった!」
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
婆「能くお出でなさいました、去年は誠にお草々そう/\をしたって昨宵ゆうべもお噂をして居りました」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
梶「ちょいとあにさん、昨宵ゆうべ泊った人はに」