放縦ほうじゅう)” の例文
旧字:放縱
モンマルトルは相も変わらず放縦ほうじゅうな展覧会が開催されて、黒い山高帽の群とメランコリックな造花の女が、右往左往していました。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
草履のそろわないうちは、駕を抜け出ないところは、やはり吾儘わがままでも放縦ほうじゅうでも大名育ちらしいが、万太郎そろそろ常の駄々ぶりを現して
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行儀のいい事を何よりも好む、神経質で口やかましい主人がいなくなったので、いい合せたようにみんなの心持は愉快に自由に放縦ほうじゅうになった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
はじめにいた一度結婚したことのある婢は、何故なにゆえかすぐ逃げだしてしまったと云うことも思いだした。彼の考えはしきり放縦ほうじゅうな女の話へ往った。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
放縦ほうじゅうな娘の策略に巻き込まれたり、あるいは面白そうな眼でそれをながめることよりも、彼には他になすべきことがあった。
曰くイエスの徒弟どもは、極端に放縦ほうじゅう無規律なるしれものである。曰く彼等は、赤児を殺し食膳に上せる鬼どもである。
寄宿舎に閉じこめられてかごの鳥のごとく小さくなっている師範生の目から見ると、中学生の生活はまったく不潔であり放縦ほうじゅうであり頽廃的たいはいてきである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
放縦ほうじゅうなさなぎの状態からぬけ出て、精神の品位をゆたかな表現で知覚するのになれ、孤独の——助言者もない、つらいひとりきりのなやみや闘争にみちた
一面には世の中が何時いつも春の花の咲いているような、黄金が途上みちばたにもざくざくこぼれていれば、掘井戸のなかからもいて出るといったような、豪華な放縦ほうじゅう
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
宮はその話に気がお進みにならないで、御所の中で放縦ほうじゅうな生活をして楽しんでおいでになるから、おかみや中宮様の御処置も当を得なかったわけになるのだね。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
無頼とは云えぬまでも放縦ほうじゅうにしてこだわる所の無い游侠の徒である。子路は立止ってしばらく話した。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それ以来素戔嗚すさのおは、この春のような洞穴の中に、十六人の女たちと放縦ほうじゅうな生活を送るようになった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
放縦ほうじゅう、堕落、淫虐の強烈毒悪なる混合酒に酔わされて、数千年来自然に親しみつつ養い来った日本民族の純情を失いかけていた自分自身をやっとの事で発見しました。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あるいは却ってこの情欲を放縦ほうじゅうならしめんがために好んで独居するものも多いのであるから、風俗を乱すの禍因はむしろこの独身者によって多く醸出さるるものである。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
若しこの一面がなかったら、イブセンは放縦ほうじゅうを説くに過ぎない。イブセンはそんな人物ではない。イブセンには別に出世間的自己があって、始終向上してこうとする。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その翻弄ほんろうをさえ許すのである——その解放と、放縦ほうじゅうによって、救われなかった男性が幾人ある?
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すすめられるままに、二三杯口にしたところが、たちまちカッと顔が熱くなり、頭の中にブランコでもゆすっているような気持で、何かしら放縦ほうじゅうなものが心を占めて行くのを感じ始めた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こういう余儀ない事情はかれらを駆って放縦ほうじゅう懶惰らんだの高等遊民たらしめるよりほかはなかった。かれらの多くは道楽者であった。退屈しのぎに何か事あれかしと待ち構えているやからであった。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人生創造の愉快な進軍ラッパは、放縦ほうじゅうなる享楽の生活に打ち勝って、地味な、真面目まじめな「勤労」に従事することによってのみ、高く、そして勇ましく、吹き鳴らされるのではありませんか。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
放縦ほうじゅうな生活をしている者は、かならずストイックな生活にあこがれている。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お島の放縦ほうじゅうな調子におずおずしている順吉に話しかけた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
またこの放縦ほうじゅうな恋の病人を、それまであやつって行ききれるかどうかという点は、弦之丞の性格にはなはだ自信がとぼしかった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、放縦ほうじゅうな仲間の者から誘われると下町あたりの、入口の暗い二階の明るい怪しい家に往って時どき家をあけることも珍らしくなかった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
弁士の黄色な声もにごった空気もさまでいやでなくなった、そうして家庭や学校では聞かれない野卑な言葉や、放縦ほうじゅうな画面に次第次第に興味をもつようになり
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それは放縦ほうじゅうな料理店だったが、それでもこれら二百万人の食欲を満足させるに足りなかった。
ありとあらゆる形式の虚栄と利己主義、すべての種類の怠慢と懶惰らんだまた何等なんらかの形で行わるる放縦ほうじゅう我儘わがまま——これみな向上前進の大敵である。魂にとりて最大の味方は、愛と知識の二つである。
難をいえば、犬千代は感情につよく、同僚などとも刃傷沙汰にんじょうざたを起して、殿の勘気をうけたりしたこともあった。素行そこう放縦ほうじゅうのように思われる。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
客のすくない電車の中は放縦ほうじゅうなとりとめもないことを考えるにはつごうがよかった。彼の頭の中にはっそりした小女こおんなの手首の色も浮んで来た。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
吉宗も、まだ新之助といって、紀州家の部屋住みでいた当時は、よく市中に出て、市井しせいの不良と大差のない放縦ほうじゅう放埒ほうらつをやッていた経歴がある。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浮わついた風俗と華奢かしゃを競い、人間すべてが満足しきッてでもいるようなあやしい享楽色と放縦ほうじゅうな社会をつくり出していた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これも手つだってか、彼の放縦ほうじゅうは自暴の相を帯びだした。元々、百姓はしょうに合わないといっている彼なのだ。家事はいよいよかえりみもしない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らは水滸すいこ要寨ようさいって、野性放縦ほうじゅう、とても手におえないことは、これまでもしばしば差向けられた討伐軍が、いたずらに損害また損害のみうけて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多分に、戦国のあらい土質から育って出た豪毅な気性や、型にはまらない不屈と放縦ほうじゅうつらだましいを持っている。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民に慢心放縦ほうじゅうの癖がついた時、これを正そうとして法令をにわかにすれば、弾圧を感じ、苛酷をそしり、上意下意、相もつれてやまず、すなわち相剋そうこくして国はみだれだす。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、その弟と来ては、これは手のつけられない放縦ほうじゅうで、腕は兄の清十郎よりも強いそうであるが、家名もへちまもない、いわゆる責任なしの次男坊にでき上っている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしも、室町将軍家の兵法所出仕として、名誉と財と、両方にめぐまれて来た吉岡家も、清十郎の代になって、放縦ほうじゅうな生活をやりぬいたため、すっかり家産は傾いてきた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんな物が、どんなに味覚をよろこばせるのかと思うと、熱い涙がにじみ出て、お綱は、放縦ほうじゅうにぜいたくのし放題をやってきたことが、この二人だけにすまない気がする。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いくら放縦ほうじゅうな女でも、さだめし、いているだろうと思う。何といっても血筋だから、本人の居所が知れるものならば、その子供たちも、どうかしてやりたいと言っておるんじゃ」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向後こうごあの居候殿の放縦ほうじゅうも少し慎しむような方針をとるべく、かみにも御意見しなければならぬ——と啓之助は、山番たちの前に息まいて、それぞれの指図を与え、納屋蔵の外へ追いやった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先代信秀のぶひでから、平手中務なかつかさと共に、遺子こどもをたのむぞ、と死後を託された一人だったが、その信長の放縦ほうじゅうと、つかまえ所のない天性に、見限みきりをつけてしまったものとみえ、専ら、信長の弟信行と
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又、個人的に思ってみても、刹那的せつなてき快楽や、虚無に尽きる放縦ほうじゅうが、どれほど生涯につづくか、その突当りは、滅失の穴にきまっているのだ、何の人間らしい生命の光や幸福を感じる深さがあろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故郷ふるさとへまわる六部ろくぶの気の弱り——で、お十夜がこの際寸閑すんかんをぬすんで、郷里をのぞいたことは、ようやくかれの放縦ほうじゅうな世渡りと、そぼろ助広の切れ味に、さびしいとうが立ってきたのを語るものである。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)