手酌てじゃく)” の例文
それから手酌てじゃくで、一ぱい二はいと重ねているうちに、いい心持になって、そのまま、うとうとといどをはじめてしまいました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あり合せの鍋物をあつらえて、手酌てじゃくでちびりちびり飲みだしたが、いつもの小量にも似ず、いくら飲んでも思うように酔わなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
口もいている七十余りの老婆は酒が好きと思われて中の茶の間の火鉢の前に坐って、手酌てじゃくでちびりちびり酒を飲んでいた。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
手酌てじゃくで一人ちびりちびりなどということは、あの時代の者には考えられぬことであったのみならず、今でも久しぶりの人の顔を見ると酒を思い
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いや、しょうのものの膝栗毛ひざくりげで、いささか気分なるものをただよわせ過ぎた形がある。が、此処ここで早速頬張ほおばって、吸子きびしょ手酌てじゃくったところは、我ながら頼母たのもしい。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お客様をそっち退けにして、こっちばかりが勝手に飲んだり食ったり……。はは、どうも済みません。(手酌てじゃくで飲む。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この男は見て見ぬように踊子たちの姿と、物食う様子とを、楽し気に見やりながら静かに手酌てじゃくさかずきを傾けていた。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
気まずくなった気持はなかなかけないで、孫兵衛も旅川周馬も、黙って、手酌てじゃくにがさかずきをかさねている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手酌てじゃくで初める所を、清次はそっと煙管きせる吸口すいくち柱際はしらぎわの壁の破れをつッつくと、穴が大きくなったから。
わざとくそ落ちつきに落ついて、おのぶが不承不精に出す湯呑へ、手酌てじゃくでなみなみとつぎ入れた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
帰って行くと、父親は火鉢のそばで、手酌てじゃくで酒を飲んでいた。女も時々来ては差し向いに坐って、海苔のりつまんだり、酌をしたりしていたが、するうちお庄もそばすしなど食べさせられた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お初は、冷たく笑って、手酌てじゃくで、自分の杯に注ぐと、うまそうに一口すすって
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
女も手酌てじゃくで、きゅうとって、その後徳利を膳に置く。男は愉快気ゆかいげに重ねて
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
左衛門は手酌てじゃくでチビリチビリ飲んでいる。お兼は黙って考えている。松若は本を見ている。親鸞、慈円、良寛、舞台の右手より登場。墨染めの衣に、おいを負い草鞋わらじをはき、つえをついている。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
春藤幾久馬と丹ちゃんは、その間に、手酌てじゃくでせっせとかたむけている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
冷たくなった焼き味噌もあぶり直せば、それでも夜の酒のさかなになった。やがて半蔵は好きなものにありついて、だれに遠慮もなく手酌てじゃくはいを重ねながら、また平田門人の生くべき道を思いつづけた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その間に徳二郎は手酌てじゃくで酒をグイグイあおっていた。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
金蓮は三つ四つ手酌てじゃくでつづけた。今日こそぶつかってやれ、と心にひそめていたものの、やはり勇気が欲しい。自分で自分がもどかしい。彼女は泣きたくなった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丸山勇仙は、浮かない仏頂寺を浮き立てるつもりで、自分がぐいぐいと手酌てじゃくで盃を重ねながら、ようやく浮き立とうとつとめたが、気のせいか誂向あつらえむきに浮いて来ないらしい。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
君江はなかばをつぶってサムライ日本何とやらと、鼻唄はなうたをうたうのを、川島はじっと聞き入りながら、突然何か決心したらしく、手酌てじゃくで一杯、ぐっとウイスキーを飲み干した。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一人で飲むにも酌をする者を前にすわらせ、また時々はそれにも一杯飲ませようとする。そうして手酌てじゃくでこそこそと飲んでいる者を、気の毒とも悪い癖とも思う人は多いのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
宵から、天堂一角の隣り座敷にいて、向うで断わった虚無僧を呼べといい、おまけに手酌てじゃくをきこししていたお嬢様——それは見返りおつな——小皿を投げたのもお綱であった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
友達が手酌てじゃくの一杯を口のはたに持って行きながら
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「大丈夫だろう……」孫兵衛は席へ戻って、手酌てじゃく一盞いっさんを、チビリとくちに鳴らしながら
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼延灼こえんしゃくは、ついつい、手酌てじゃくをかさねて、したたかに酔ってしまった。さいごに、飯をと亭主が揺り起しても、そこの卓に俯伏うっぷしたまま、どっと疲れも出て眠り入ってしまったていだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうもお二人さんともお行儀がいい。こっちは手酌てじゃくとゆきますぜ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『オオこれか』——数右衛門は手酌てじゃくで飲みながら
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、かの女も手酌てじゃくで二、三杯たてつづけに飲んだ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と二ツ三ツ手酌てじゃくを重ねて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、手酌てじゃくいで——
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)