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恟々
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きょうきょう
ふりがな文庫
“
恟々
(
きょうきょう
)” の例文
三法師丸は安土城に入れ、清洲の信雄を移り来らしめて後見となした。天正十年十二月の事で、物情
恟々
(
きょうきょう
)
たる中に年も暮れて行った。
賤ヶ岳合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
それからというものは我藩は人心
恟々
(
きょうきょう
)
としていたが、十日に至って新藩主が帰藩されたという事が伝って士分一同三の丸へ出頭した。
鳴雪自叙伝
(新字新仮名)
/
内藤鳴雪
(著)
春来
(
しゅんらい
)
、国事多端、ついに
干戈
(
かんか
)
を動かすにいたり、
帷幄
(
いあく
)
の士は内に焦慮し、
干役
(
かんえき
)
の兵は外に
曝骨
(
ばっこつ
)
し、
人情
(
にんじょう
)
恟々
(
きょうきょう
)
、ひいて今日にいたる。
中元祝酒の記
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
彼らは車をあとにして土手のうえを歩いて行ったが、筒井は直覚的に何か恐れに似た嬉しさが
恟々
(
きょうきょう
)
として襲うて来ることを感じた。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
「何かの前兆だろうと触れ歩くものがあって、人心
恟々
(
きょうきょう
)
たるところへ我輩が
呱々
(
ここ
)
の声を上げると、さしもの大噴火がその朝から静まる」
ガラマサどん
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
▼ もっと見る
鼓賊の禍いにかててくわえて、辻斬り沙汰というのであるから、江戸の人心は
恟々
(
きょうきょう
)
として、夜間の通行さえ途絶えがちになった。
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
三郎兵衛のいう半分も耳に入らないような
眸
(
ひとみ
)
のうごきである。
恟々
(
きょうきょう
)
と
早鐘
(
はやがね
)
をつくような胸が、じっと、黙っていられないように
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それは実にその伝播の
迅
(
はや
)
さといっては恐ろしい位のもの、一種の群衆心理と申すか、世間はこの
噂
(
うわさ
)
で持ち切り、人心
恟々
(
きょうきょう
)
の体でありました。
幕末維新懐古談:18 一度家に帰り父に誡められたはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
大火についで農兵の調練、それにこのたびのすさまじい恐怖——小さな天地の動揺はようやく静まらず、人心
恟々
(
きょうきょう
)
として真相に迷うの雲が深い。
大菩薩峠:32 弁信の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
都鄙の人心が戦乱のために朝夕
旦暮
(
たんぼ
)
恟々
(
きょうきょう
)
として何事も手につかず、すべて絶望の状態にあったとは信じ得ない。
東山時代における一縉紳の生活
(新字新仮名)
/
原勝郎
(著)
そこで江戸の人心が
恟々
(
きょうきょう
)
たる様子もあり、ここを付け込んで不逞の徒が跳梁する。これを鎮撫させるという名義を拵えて、御用の暴力団を江戸へ返しました。
話に聞いた近藤勇
(新字新仮名)
/
三田村鳶魚
(著)
「おかやがまいりましたろうか」「此処へは来ないが」靱負はおかやという言葉に
恟々
(
きょうきょう
)
として出ていった
日本婦道記:二十三年
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
まったく、一時はどんな形勢に陥らないとも知りがたかった。どうやら時勢はあと
戻
(
もど
)
りし、物情は
恟々
(
きょうきょう
)
として、半蔵なぞはその間、宮司の職も手につかなかった。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
流言
蜚語
(
ひご
)
は間断なく飛んで物情
恟々
(
きょうきょう
)
、何をするにも落付かれないで仕事が手に付かなかった。
最後の大杉
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
竹渓の没した文政十年以前にあって当時の人心を
恟々
(
きょうきょう
)
たらしめた辺事の
重
(
おも
)
なるものは文化三年九月露人の蝦夷を
寇
(
こう
)
した事と、文化五年八月英艦の長崎を騒した事件とである。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
されば、人心
恟々
(
きょうきょう
)
として、安き心も無く、後日、釣船の宿にて聴く所によれば、
騒擾
(
そうじょう
)
の三日間ばかりは、釣に出づる者とては絶えて無く、全く休業同様なりしといふ。
左
(
さ
)
もあるべし。
東京市騒擾中の釣
(新字旧仮名)
/
石井研堂
(著)
海辺に
家宅
(
かたく
)
ある士民、老幼婦女の立退かんとて家財雑具を持運ぶ様、さしもにひろき府下の
街衢
(
がいく
)
も、奔走狼狽して
錐
(
きり
)
を立つべき処もなし。
訛言
(
かげん
)
随
(
したが
)
って沸騰し、人心
恟々
(
きょうきょう
)
として定まらず。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
また、前の年の秋頃から、時々、浅間山が噴火し、江戸の市中に
薄
(
うっ
)
すらと灰を降らせるようなこともあったので、
旁々
(
かたがた
)
、何か天変の起る
前兆
(
まえぶれ
)
でもあろうかと、
恟々
(
きょうきょう
)
たるむきも少くなかった。
平賀源内捕物帳:萩寺の女
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
物価の高いのに、災難が引き続いてあるので、江戸中人心
恟々
(
きょうきょう
)
としている。
護持院原の敵討
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
三成、行長、恵瓊の三名主謀して毛利浮田島津らを語らひ家康討伐の準備とゝのへる趣き、上方の人心ために
恟々
(
きょうきょう
)
たり、とある。如水は一読、面色にはかに凜然、左右をかへりみて高らかに叫ぶ。
二流の人
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
最初の二人は腫れ物にでも触るように、
恟々
(
きょうきょう
)
として立ち向った。が、主君の激しい槍先にたちまちに突き
竦
(
すく
)
められて平伏してしまう。
忠直卿行状記
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
長浜の町は、
鼎
(
かなえ
)
の沸くような騒ぎだった。すでにここは木之本、賤ヶ嶽にも近く、今暁以来、前線の
崩壊
(
ほうかい
)
に
恟々
(
きょうきょう
)
としていたところだった。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
寧
(
むし
)
ろ起き直ってみることさえも
億劫
(
おっくう
)
がって、せっかく破られた夢を再び結び直すのに長い暇を要することなく、村のあらゆる人々の
恟々
(
きょうきょう
)
たる一夜を
大菩薩峠:17 黒業白業の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「
大猷院様
(
だいゆういんさま
)
にもご
薨去
(
こうきょ
)
のみぎり、天下なんとなく騒がしく、人心
恟々
(
きょうきょう
)
のおりからでござれば、なにとぞ伯父上におかれましても、
由縁
(
ゆかり
)
の知れぬ浪人など」
剣侠受難
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
かく述べ来ると当時の京都の住民は、
朝
(
あした
)
をもって
夕
(
ゆうべ
)
を計り難く、
恟々
(
きょうきょう
)
として何事も手につかなかったように想像されるが、実際はさほどにあわてて落ちつかぬ暮らしをしていたのではない。
東山時代における一縉紳の生活
(新字新仮名)
/
原勝郎
(著)
「いっそのこと、一同して、御心中を
糺
(
ただ
)
してみてはどうであろう。御意をおそれて、ただ
恟々
(
きょうきょう
)
としているはよろしくあるまい」
上杉謙信
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
真槍の仕合があって以来、殿の
御癇癖
(
ごかんぺき
)
が募ったという警報が、一城の人心をして、忠直卿に対して
恟々
(
きょうきょう
)
たらしめた。
忠直卿行状記
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
だから、この騒動は、動揺だけはずいぶん烈しく、いまだに附近の人心は
恟々
(
きょうきょう
)
としているのですが——当事者は、加害被害ともに跡かたもなくなっている。
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
慶安三年六月二日、天草の乱しずまってより、わずかに十二年を経たばかり、将軍家光存命ながら、狂乱の噂府内にもれ、物情騒然人心
恟々
(
きょうきょう
)
、天下乱を思う折柄であった。
剣侠受難
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
みかどの御無念そうな眉を
繞
(
めぐ
)
って、大内裏の広大な無力の森のうちで、今はただ
恟々
(
きょうきょう
)
と、ただ事の打開策に集議ばかりしている有様だった。
私本太平記:02 婆娑羅帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一九一四年の七月の下旬になると、リエージュの人心はすこぶる
恟々
(
きょうきょう
)
たるものであった。リエージュの要塞もひそかに動員をして、弾薬の補充を行った。
ゼラール中尉
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
江戸市中人心
恟々
(
きょうきょう
)
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ぼくはまだ
恟々
(
きょうきょう
)
たるものを胸に残しているので、「お父さんは?」と家の中を見廻し「……お父さんは何処へ行ったの」と、何度も訊ねた。
忘れ残りの記:――四半自叙伝――
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
生れて以来、叱られるなどという感情を夢にも経験したことのない主君に対して、大御所の激しい叱責がどんな効果を及ぼすかを、彼らは
恟々
(
きょうきょう
)
として考えねばならなかった。
忠直卿行状記
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
とさわぎ出して、近臣は動揺し、魏帝も色を失って、沿道いたる処、
恟々
(
きょうきょう
)
たる人心と、乱れとぶ風説の
坩堝
(
るつぼ
)
となってしまった。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
小康を得て居た当時の京都の人心は為に
恟々
(
きょうきょう
)
として畏怖動揺したとみえる。洞院
公賢
(
きみかた
)
は其の日記に此の仔細を記して居るが、京都の諸寺一時に祈祷の声満つると云う有様であった。
四条畷の戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
ただただ
胆
(
きも
)
を奪われて、宵のうちから酔えもせず、ただ
恟々
(
きょうきょう
)
としていた蒋幹は、もちろんここへ入っても容易に眠りつくことができなかった。
三国志:07 赤壁の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「いつか一度、いらしったことがあるそうですが、私はお取次ぎいたしませんでした。九月中に、一、二度お電話がかかりましたことは、存じております。」女中は、まだ
恟々
(
きょうきょう
)
としていた。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
恟々
(
きょうきょう
)
と、人心はおののいている。彼らには、なぜ念仏を口にすれば国法にふれるのか、いってならないのか、分らなかった。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
常に
恟々
(
きょうきょう
)
としていることは、新子の堪え得るところではなかった。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
昨今、京都の上下は
恟々
(
きょうきょう
)
と万一の憂いにおびえ出しており、それに第一、執事の高ノ
師直
(
もろなお
)
などが、決して、尊氏を
安閑
(
あんかん
)
とはさせておかなかった。
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
朝野の人心
恟々
(
きょうきょう
)
たるものであったであろう。
田原坂合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
一方、成都のうちは、いまにも玄徳が攻めてくるかと、人心は動揺してやまず、府城の内でも
恟々
(
きょうきょう
)
と対策に
沸騰
(
ふっとう
)
していた。
三国志:09 図南の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
雑仕の
女
(
め
)
や、家人たちに見張らせても、ききめはない。なぜなれば、いまや召使たちが
恟々
(
きょうきょう
)
と仕えているのは、家成ではなくて、泰子であった。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そのたび彼は
恟々
(
きょうきょう
)
と、獣じみた眼を光らせた。その眼はまったく一月前の彼ではない。市十郎はたしかにどうかしている。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
寡
(
か
)
は衆に敵せず——このことは、ご自身にも、深く憂いて、
恟々
(
きょうきょう
)
と自信なく、如何にかはせんと、惑っている所でしょう。
三国志:07 赤壁の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
地理的には東南に孫権、北方に曹操があって、たえず
恟々
(
きょうきょう
)
と守備にばかり気をつかわなければならない。ただ一方、門戸のあるのが西蜀であった。
三国志:08 望蜀の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
法皇、上皇のお寝小屋でも、
恟々
(
きょうきょう
)
と何かおささやきが洩れ、ひとしくどこの寝小屋もよくお眠りではなかったらしい。
私本太平記:08 新田帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
洛中の者は、詮議の
苛烈
(
かれつ
)
を予想して
恟々
(
きょうきょう
)
としていたが、このことについては、存外、その後さしたる余波もなかった。
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
信長
卿
(
きょう
)
より羽柴家へ付け置かるるという特殊な関係になっておるので、いつ召し戻されるやも知れぬと、秀吉も内心常に
恟々
(
きょうきょう
)
としておる厄介な家人だ。
黒田如水
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
恟
漢検1級
部首:⼼
9画
々
3画
“恟々”で始まる語句
恟々然