御尤ごもっと)” の例文
だいたいあんまり本当のことを言われても挨拶あいさつのしようがないことと同じように、御尤ごもっともですという以外の幅も広さもないのである。
文章の一形式 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
御尤ごもっともでございます、なんとかして早くお帰し申すようにして上げたいと……でも当分は、おうちのつもりで御休息をなさいませ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まことに御尤ごもっともではございますが、あなたは萩原様におうらみがございましょうとも、私共わたくしども夫婦は萩原様のお蔭で斯うやっているので
『おことばは御尤ごもっともでござる。しかし、此方一存ではござらぬ。殿のお心をもって、殿の為さるであろうように、計らう迄のことでござる』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、閣下のお腹立はらだちは、全く御尤ごもっともです。私からも、主人に反省を促すように、申します事でございます。それでは、これでおいとま致します。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
御尤ごもっとも千万、だが、——平次殿に乗出して頂こうというわけではない。ほんの少しばかり、智恵を拝借すればよいのじゃ」
……これは一応、御尤ごもっとも千万のように聞こえるが……しかし……私は失礼ながら、ここで一つ諸君にお尋ねしたい事がある。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「突然申上げては、びっくりなさるのも御尤ごもっともですが、決して冗談ではありません。幽霊はもういけどってしまったのです。これを御覧なさい」
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
代診が来て、これじゃ旅行は無理ですよ、医者として是非めなくっちゃならないと説諭したが、御尤ごもっともだとも不尤ふもっともだとも答えるのがいやだった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「よく聞伝えて来て下さいました。お年寄のおっしゃるのは御尤ごもっともです、お国にいた時には随分出たお薬ですから。」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「それは一応御尤ごもっともです。御尤もではござんすが、手前共でも若い者まかせにはしないで、吾々われわれ自身出ばるつもりなんで、何しろこの際の事ですから……」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
御尤ごもっともです。しかし、ほんとのことを言うと、その、あなたの健全な自由に価値するほどの、教養も、準備も、自信も、まだ私達には出来ていないのです。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
御尤ごもっともです。いえ、ただ大原という人の性格をよく知って置かねばならぬので、おたずねしただけです」
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
御尤ごもっともでございます。佐渡守様もあのように、仰せられますからは、残念ながら、そうなさるよりほかはございますまい。が、まず一応は、御一門衆へも……」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御尤ごもっともでござります。お叱りは承知致しております。人様にも、誰にもいえぬ、奇怪な事がござりますゆえ、未だ、一言も申しませぬが、貴下あなたへ、せめて——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「へっへ、御尤ごもっともで」望月はれの人柄をもう読んだらしく苦しそうに扇子を使いながら
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
おもむろに某国代表の御意見は御尤ごもっともであるが、しかし他方にはまたこういうこともあるから、御再考を願いたいというような、婉曲に対手あいての感情を害せぬように叮嚀ていねいに争うのである。
いや、御尤ごもっともですが明日からは会社の方もお休みでしょうし、わざわざお宅へお伺いするほどの要件でもないのですから、御迷惑でも少しこの辺を散歩しながら話して戴きましょう。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
国からの補助を受けませんでも、私等は私等二人で出来るまでこの世に生きてみようと思います。先生に御心配を懸けるのは、まことに済みません。監督上、御心配なさるのも御尤ごもっともです。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
こう暑くなっては皆さんがたがあるいは高い山に行かれたり、あるいはすずしい海辺うみべに行かれたりしまして、そうしてこの悩ましい日を充実した生活の一部分として送ろうとなさるのも御尤ごもっともです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
苦労人くろうとが二人がかりで、妙子は品のいい処へ粋になって、またあるまじき美麗あでやかさを、飽かずながめて、小芳が幾度いくたび恍惚うっとり気抜けのするようなのを、ああ、先生に瓜二つ、御尤ごもっともな次第だけれども
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世外侯せがいこうの額の筋がピカピカとすると、そりゃこそおいでなすったとばかりに、並居なみいる人たちは恐れ入って平伏する。そして小声で、悪いようには計らわないから、御尤ごもっともとうなずいてしまえとすすめる。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
□「清子」と仰云おっしゃる方に申ます。何時ぞや下さいましたお手紙では、私にはまだはつきりとあなたの理解が出来ないと仰云つてお出になる点が分りません、お別れになつたのは御尤ごもっともな事に思へます。
「お疑いは御尤ごもっともです」と丘はニコニコ笑って云った。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そりゃもう姉さんの腹を立たれたのは、御尤ごもっともです」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いかにも御尤ごもっともで。」とチチコフが肯いた。
御尤ごもっともでございます」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いや、御尤ごもっともです。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その不審は御尤ごもっとも。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御尤ごもっともです」
御尤ごもっともです。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
御尤ごもっとものお説でございます、森林の美は木曾にまされるところなしとは、先生のお説のみならず、一般の定評のようでございます」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小母おばさんお待ちなすって下さい、あねさまが人さまの妾にはならないと云うのも御尤ごもっともな次第、と云って貴方あんたに返す金はありやせんから、何卒どうぞわし
「一応御尤ごもっともですが、私にはまだに落ちないことがあります。ちょっと、お宅の間取りから、風呂場の様子、雇人の顔も見せて下さいませんか」
御疑いになるのも御尤ごもっともで御座います。本当は妾もまだその時の疑いが晴れませぬ。ですからこのように打ち明けてお話しをするので御座います。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「なるほど」というべきところを、わざと「なある」と引張ったり、「御尤ごもっとも」の代りに、さも感服したらしい調子で、「いかさま」と答えたりした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなた様のお気持は、決して無理ではない、御尤ごもっともです。兵部ははらわたが掻きむしらるる程、御推察いたしまする。親子の情愛、そうなくてはならないところです。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この懐中鏡は私の死んだ姉の形見かたみです。その死んだ姉というのが、今云った北川すみ子なのですよ。びっくりなさるのは御尤ごもっともですが、実はこういう訳なんです」
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そう云う今日、この大都会の一隅でポオやホフマンの小説にでもありそうな、気味の悪い事件が起ったと云う事は、いくら私が事実だと申した所で、御信じになれないのは御尤ごもっともです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
乳人めのとは滋幹に、若様がお母さまをお慕いになるのは御尤ごもっともですが、ほんとうにおいとおしいのはお父さまでございますよ、と云い、お父さまは淋しがっておいでゞすから、大切にして
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「大変御尤ごもっともなおおせです。それではその用事とかを承わろうじゃありませんか。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
御尤ごもっとも。直ぐ発令します、ワーナー団長」
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
御尤ごもっともです……」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
御尤ごもっとも——」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
侍の組打ちは勝つと斯様かようのものだと仕形をして見せたのだ、言い分はあるまいと言ったが、御尤ごもっとも、一声もござりませぬと言いおった。
「親分、お腹立は御尤ごもっともですが、名前を申上げられないわけがございます。——何を隠しましょう、私は、地獄から参ったものでございます——が」
御尤ごもっともでございますが、私のうちの娘は年は二十五にもなり、体格なりも大きいけれども、是迄屋敷奉公をして居りやしたから、世間の事を知らねえ娘で
アハハ。いかにも御尤ごもっともですな。それじゃこう願えますまいか。明朝なるべく早くがいいですな。何かしら絶対に間違いのない用事をこしらえてその娘を
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御尤ごもっともです。勝気で意地っ張なところが貴女あなたに似ているじゃありませんか。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
イヤ、御分りがないのは御尤ごもっともです。私だって、最初は自分の頭がどうかしたのかと疑った程です。併し、私はもう半年もの間、その、私と寸分違わない怪物の為に悩まされているのです。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)