御前おんまえ)” の例文
言語や名称は時代によって意味が違って来る。「おまえ」という言葉は昔は至尊の御前おんまえに称するもので、先方に対する最敬語であった。
舌鼓したつづみうつ)たったったっ、甘露甘露。きゃッきゃッきゃッ。はて、もう御前おんまえに近い。も一度馬柄杓でもあるまいし、猿にも及ぶまい。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幼きものを御衣みころもの、もすその中に掻き抱き給うなる大慈大悲の御前おんまえ、三千世界のいずれのところか菩薩捨身の地ならざるはなし、と教えられながらも
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御前おんまえ様。……ぶしつけではございますが、ただの場合ではございませぬ。どうぞ、お身装みなりなど気づかいなく、早くここを開けて、お顔をかして下さいまし」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大帝の御前おんまえに祈をささげ終った二人は、いかりマークのついた自動車を走らせて目黒の岡に向った。大佐がハンドルをにぎっている。自動車はとある森かげの小さい邸の前にとまった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
それは文字を白く染抜いた紫の旗で、外に記念の賞を添えまして、殿下の御前おんまえ、群集の喝采かっさいなかで、大佐から賜ったのでした。源の目は嫉妬しっとの為に輝いて、口唇は冷嘲あざわらったように引ゆがみました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この事件は、よほど頭をしっかりさせて研究しないと、途中で飛んでもない錯覚に陥るおそれがあると云って警告しといたじゃないか……吾輩は姪の浜、浦山の祭神、うず権現ごんげん御前おんまえにかけて誓う。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おお、お慈悲ぶかい聖母さま、あなた様はこんな事件ことの起るっていうことを、決して決してお許しになりますまい……今にあなた様の御前おんまえに、御礼のおいのりを捧げることの出来まするように……」
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
木立ちをくぐり藪の裾を巡り、宮家の御首級みしるし御前おんまえまで来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御前おんまえにござります……」
神職 いずれ、森の中において、いまわしく、汚らわしき事をいたしおるは必定ひつじょうじゃ。さて、婦。……今日きょうは昼からこもったか。真直まっすぐに言え、御前おんまえじゃぞ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わけて、従兄弟にあたる金王丸こんのうまるは、わらべの頃から六条のおやかたに仕え、義朝様が御前おんまえ様の許へお通いなさる折は、いつもお供について行きなどいたしたものです
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(かつ面を脱ぐ)おっとあるわい。きゃッきゃッきゃッ。仕丁しちょうめが酒をわたくしするとあっては、御前おんまえ様、御機嫌むずかしかろう。猿がわざ御覧ごろうずれば仔細しさいない。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自身、御前おんまえまかり出で、とくとお詫びいたさねばなりませぬゆえ、もう一度お目通りのおゆるしを賜わるように、左右の方々へも、お取做とりなしの儀願い入りまする
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御前おんまえあわいげんばかりをへだつて其の御先払おさきばらいとして、うちぎくれないはかまで、すそを長くいて、静々しずしずただ一人、おりから菊、朱葉もみじ長廊下ながろうかを渡つて来たのはふじつぼねであつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いや今日、殿の御前おんまえで、いろいろ築城上のはなしが出た折、森どのがしきりと、天守閣の御説明を申しあげ、近く安土あづちにお築きになる御城廓には、ぜひその天守を
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あ。これは逸物いちもつらしい。願わくば相国の御前おんまえで、ひと当て試し乗りに乗ってみたいものですな」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、それは愛々しい、仇気あどけない微笑ほほえみであったけれども、この時の教頭には、素直に言う事をいて、御前おんまえさぶらわぬだけに、人の悪い、くみし易からざるものがあるように思われた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はいっ、はいっ。臣賀めは、御前おんまえでござります。お召は、なんの御意ぎょいにござりましたか」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向うを、墨染すみぞめで一人若僧にゃくそうの姿が、さびしく、しかも何となくとうとく、正に、まさしく彼処かしこにおわする……天女の御前おんまえへ、われらを導く、つつましく、謙譲なる、一個のお取次のように見えた。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ははッ、典膳めは御前おんまえにござります」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御前おんまえじゃ。」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はッ。——御前おんまえに」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)