待遇たいぐう)” の例文
杯は、なごやかな主従のあいだを、幾たびも往復する。こういう打ち溶けた待遇たいぐうは、一族の者でも、めったに恵まれないものであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奉公人ほうこうにんがみなほめちぎっている。しかし正三は奉公人としてあがるんじゃない。ご三男様のお相手として万事ご三男様と同じ待遇たいぐうを受けるんだ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「なにうでもありません」ぐらゐにしてくと、その語氣ごきがからりとんでゐないので、御米およねはうでは、自分じぶん待遇たいぐうわる所爲せゐかと解釋かいしやくすることもあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お前たちの仲間もあちこちに、ずいぶんあるし又私も、まあよく知っているのだが、でそう云っちゃ可笑おかしいが、まあ私のところぐらい、待遇たいぐうのよい処はない。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なぜならわたしたちはさっきのおばさんの待遇たいぐうぶりで、がっかりしきっていたから、たぶん門口かどぐちわかれることになるだろうと、道みちも思っていたからであった。
けだし春琴は鵙屋のおじょう様であるからいかに厳格な師匠でも芸人の児を仕込むようなはげしい待遇たいぐうをする訳に行かない幾分か手心を加えたのであろうその間にはまた
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兎角家の中のもめ事の種になり、何時の間にやら待遇たいぐうの格を下げられて、今では奉公人とあまり變らぬ——どうかしたらもつとひどい生活をさせられてゐる樣子でした。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
日本の女は、他の東洋諸国の女のやうに、幽閉いうへい同様のを見てゐない。相当の社会的待遇たいぐうを受けてゐるのみならず、その父や夫の遊楽にあづかることも出来るものである。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おどは、自分が片足で立たないと劇場はつぶれてしまう。なにしろ、自分は舞踊ぶよう界の大家なんだから、それにふさわしいように、待遇たいぐうしてもらいたい、と、言いだしました。
「吾、大夫のしりえに従うをもってなり。故にあえて言わずんばあらず。」無駄とは知りつつも一応は言わねばならぬおのれの地位だというのである。(当時孔子は国老の待遇たいぐうを受けていた。)
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
同じような意味で彼は市中の酒場の女たちからも普通の客以上の待遇たいぐうを受けた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かれは白皙人はくせきじんも黄色人も黒人も、人間はすべて同一の自由と権利けんりをもち、おたがいにそれを尊敬そんけいせねばならぬと信じている。世界の人種は平等びょうどうである、人種によって待遇たいぐうを別にしてはならぬ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
建築けんちく半ばなれども室広く器物清くして待遇たいぐうあしからず、いと心地よし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分は何よりもまず母の愛を求めていた。また、母をはじめ、肉親の人たちの自分に対する公平な待遇たいぐうを求めていた。それはあのころの自分にとって、決して不当な願いではなかったはずなのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
天台千年の法城ほうじょうは、帝室や、国家からの破格な待遇たいぐうれて、仏徒は思い上がっていた。平家一門が、人臣の分を忘れて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たたえる意味にこそなれあなどる心ではなかったけれども遊里の悪洒落わるじゃれれない春琴は余りよい気持がしなかったいつも眼明きと同等に待遇たいぐうされることを欲し差別されるのを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこで君が今のように出精しゅっせいして下されば、学校の方でも、ちゃんと見ているんだから、もう少しして都合つごうさえつけば、待遇たいぐうの事も多少はどうにかなるだろうと思うんですがね
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おばさんがわたしたちにあたえた冷淡れいたん待遇たいぐうは、わたしたちにふたたびあのうちへもどる勇気ゆうきうしなわせたので、六時すこしまえにマチアとカピとわたしは、鉱山こうざんの入口に行って
「それは昔の話です。今日は士族も平民もない。みんな同じ待遇たいぐうを受けている」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一ぴきの雌に対する三びきの雄の候補者であることを自他の意識から完全にカムフラージュしていた。それが真佐子にとって一層、男たちを一視同仁に待遇たいぐうするのに都合つごうがよかったのかも知れない。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
黒田家から傅人もりびととして井口兵助、大野九郎左衛門などを付けてよこしてあるが、竹中家としてもほとんど主人半兵衛の嫡子ちゃくし同様に待遇たいぐうしていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども、今日こんにちまで宗助そうすけは、小六ころくたいして意見いけんがましいことつたこともなければ、將來しやうらいつい注意ちゆういあたへたこともなかつた。かれおとうとたいする待遇たいぐうはうはたゞ普通ふつう凡庸ぼんようのものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「わたしはマチアがさぞ、なんてことだ」と思っているだろうと考えて、こんな待遇たいぐうを受けたのがきまり悪かった。こんなことなら、なんだってあんな遠い道をはるばるやって来たのであろう。
許され尋常じんじょう芸人のやからとは世間の待遇たいぐうも違っていたのに
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから、どんな雑物焼ぞうもつやきでも、窯焚きの待遇たいぐうにはハラハラするのが世間一般、久米一のように、腹ンいで話すなんていう不作法は見たくも見られぬ例外だ。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに、ひどかったのは、つぎの、法師ほうしすがたのものと、白衣びゃくえの人をあつかった刑吏けいり待遇たいぐうである。打つ、る、あげくのてに、伊那丸と同じように引きすえて、何か、口あらくののしりちらした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)