彼家あすこ)” の例文
「……叔父さん。いくら僕が電話好きでもこれじゃトテモ遣り切れませんよ。済みませんが彼家あすこにも電話を引いて下さいナ」
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
布「いえ、お祖父さん何卒どうぞお暇を戴いて下さい、私は最う一日もられません、しお祖父さんが私を置いてけば、明日あしたにも彼家あすこを駈出します」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いつも彼家あすこで飲むと酔いつぶれて、小屋まで担いで行く役がおれときまっているが、今夜は、面倒なので置いて来た。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さきた、俺ア來る時、巡査ア彼家あすこへ行つたけどら。今日檢査の時ア裏の小屋さ隱れたつけア、誰か知らせたべえな。昨日から顏色つらいろア惡くてらけもの。』
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
はじめから彼家あすこくと聞いたらるのじゃなかった——黙っておいでだから何にも知らずに悪い事をしたよ。さきじゃ幼馴染おさななじみだと思います、手毬唄を
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
財産はみんな、十五年も彼家あすこの家政婦をやっているとかいう、あの女に捲きあげられるでしょうよ。あの女はせんからそんなことを吹聴していますからね。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
『ありますとも……あそこは名代の堅い家ですから……彼家あすこでは、薬屋の他に、つくり醤油もしてゐる筈ですが。』
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
これは此の六月の初めに、遂々とうとう話が着いて、彼女あれが彼の女中の心配までして置いて、あの関口台町から此家ここへ帰って来る時分に、彼家あすこの庭によく育っていたのを
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あたしが彼家あすこへ行つた当座、お前がだんだんいけなくおなりだという噂が、ちらりあたしの耳へ這入つた時、あたしァ、……あたしァまあどんなにかつらかつたらう。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
それに皆さんも私たちを尋ねて、ひょッと彼家あすこへでも尋ねて往ッて、もし私たちが来たら止めておくようにと頼んであるかも知れません,まァ彼家あすこへ往ッて見ましょう
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
ああした時には、額よりもあごの方が光ると、チラチラと眼にうかぶのだが——あの人は好きで好きでならないが、彼家あすこのお嫁さんにと考えると、気が進まないのだった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
と、ゆる/\力無く言ひながら立上つて、爐の方に行つて、妹の下手に音無おとなしく坐る。氣が附けば浴衣はお揃ひだ、彼家あすこにしては珍らしいことをしたものだと私は不思議に思つた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
それは冤罪えんざいです、全く冤罪です。昨日も云う通り、僕はった一度彼家あすこへ行ったりで、あの女と何等の関係も無いんです。先方むこうではう思っているか知らんが、此方こっち清浄しょうじょう潔白です。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先刻さきた、俺ア来るどき、巡査ア彼家あすこへ行つたけどら。今日検査の時ア裏の小屋さ隠れたつけア、誰か知らせたべえな。昨日きのなから顔色つらいろア悪くてらけもの。』
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼家あすこの事だから丼は出来ねえや、あれえのを焼いて酒を一本ずつ出してよ、待たして気の毒だから待賃まちゝんを二分ずつ遣るってえんだ、え、おいお爺さん
彼家あすこも無事なればよろしゅうござりますが、妙齢としごろの娘、ちと器量が過ぎますので、心配なものでござります。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの御老体も来てくれたので、ほんとうに難有ありがたかったよ。お前のお母さんは彼家あすこの人達が大好きだったんだ。ときに、お前の友達のプレマールは来ていたかい。
(新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「じゃやっぱり彼家あすこにしよう。……僕もあんまり行かない待合うちだがお宮を初めて呼んだ待合だから」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
お前がそういつて剛情を張つておいでのところを見ると、うしてもあたしが彼家あすこ嫁入いつたのを根にもつて、あたしを呵責いためて泣かして、笑つてくれやうと思つておいでなのにちがひない。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
今来た、あの母親おふくろも、何のかのって云っているからな、もう彼家あすこへは行かない方が可いぜ。心持を悪くしてくれちゃ困るよ。また何だ、その内に一杯おごるから。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武「それは気の毒千万な、お手数をかけて、全くはお家主が彼家あすこは金持だとのお指図で……」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お爺さんが彼家あすこの人ならそう言ってこうと思って、別に貸家を捜しているわけではないのだよ。奥の方でわか婦人おんなの声がしたもの、空家でないのは分ってるが、」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えゝ四方よもで、彼家あすこでは好い酒を売ります、和泉町いずみちょうでは彼家ばかりで、番頭がわっちを知ってるので、私が買いにくと長谷川町の番太が来たって別に調合を仕ないで、一本生いっぽんぎの鬼殺しを呉れますが
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「貴女はその時、お隣家となりか、その先か、門に梅の樹の有るやかたの前に、彼家あすこ乳母ばあやと見えました、円髷まるまげに結うたおんなの、嬰坊あかんぼを抱いたと一所に、垣根に立ってござって……」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兼「ムヽ橋本屋だ、彼家あすこで喰っためばる煮肴にざかな素的すてきに旨かったなア」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし……鯰の伝……それならば死んだ父爺おやじが御恩になった深川の勝山さんへ出入をするから、彼家あすこへ行って、旦那様にお頼み申して、伝にいい聞かしておもらい申して
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうだ、うらやましかったろう。おい、お香、おれが今夜彼家あすこの婚礼の席へおまえを連れて行った主意を知っとるか。ナニ、はいだ。はいじゃない。その主意を知ってるかよ」
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私だって何も彼家あすこへは御譜代というわけじゃあなしさ、早い話が、お前さんの母様おっかさんとも私あ知合だったし、そりゃ内の旦那より、お前さんの方が私ゃまったくの所、可愛いよ。可いかね。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だつて彼家あすこ二人ふたりきりだからさ。」
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)