干上ひあが)” の例文
僕等三人はしばらくのあいだなんの言葉もかわさずに茫然と玄関にたたずんでいた、伸び放題伸びた庭芝にわしばだの干上ひあがった古池だのを眺めながら。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其処そこはもはや生物の世界ではなく、暗黒な砂漠のあらしが狂い、大塩湖だいえんこ干上ひあがった塩床が、探険者の足を頑強にこばんでいる土地である。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ふくみ何にもないが一ツ飮ふと戸棚とだなより取出す世帶せたいの貧乏徳利干上ひあがる財布のしま干物さしおさへつ三人が遠慮ゑんりよもなしに呑掛のみかけたりお安は娘に逢度さを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
このへん一帯をおおうているてしもない雑木林の間の空地に出てから間もない処に在る小川の暗渠あんきょの上で、ほとんど干上ひあがりかかった鉄気水かなけみずの流れが
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
六本のはしで掻き混ぜていると湯煎ゆせん空炒からいりになるから段々水気を蒸発して細い白い糸のようなものがカラカラに干上ひあがる。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
らがも困るだ。れが困ると俺らが困るとは困りようが土台ちがわい。口が干上ひあがるんだあぞおらがのは」
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
原稿が売れると云っても、まだまだ国へまで送金どころか、自分たちの口が時々干上ひあがるのが多くて、私はその日も勤め口を探して足をつっぱらして帰ったのであった。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
壁と云うとこての力で塗り固めたような心持がするが、この壁は普通のどろ天日てんぴ干上ひあがったものである。ただ大地と直角ちょっかくにでき上っている所だけが泥でなくって壁に似ている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一つの湖水が全部干上ひあがってしまうという臆説のために、人民が動揺をはじめました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかしまたそのほかにも荒廃こうはいきわめたあたりの景色に——伸び放題ほうだい伸びた庭芝にわしばや水の干上ひあがった古池に風情ふぜいの多いためもないわけではなかった。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
流して頼みけれども女房お粂ははな會釋あしらひあれも孝行是も孝行と其たびごとに金を貸ては私どものあご干上ひあがる元々神田に居られし時は不自由もなき身代しんだい成しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
代助は返事もずに書斎へ引き返した。椽側にれた君子らんみどりしたゝりがどろ/\になつて、干上ひあがかゝつてゐた。代助はわざと、書斎と座敷ざしき仕切しきりつて、一人ひとりへやのうちへ這入はいつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かたり取其外二十や三十のちひさな仕事しごとかずれず兎角とかく惡錢身に付ず忽ち元の木阿彌もくあみ貧乏陶びんばふとくりも干上ひあがる時弟の女房のお安めが娘にあはせろ/\と毎日々々まいにち/\せまるのも惡事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御屋形おやかたの空へ星が流れますやら、御庭の紅梅が時ならず一度に花を開きますやら、御厩おうまや白馬しろうま一夜いちやの内に黒くなりますやら、御池の水が見る間に干上ひあがって、こいふなが泥の中であえぎますやら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)