姿態しな)” の例文
誇らしげに胸の下に圧している高氏の面をながめる様といい、四肢でするその行為といい、美獣が餌をなぶるときの姿態しなとおなじだった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠一といふ、今度尋常科の三年に進んだ校長の長男が、用もないのに怖々おづ/\しながら入つて來て、甘える樣な姿態しなをして健の卓に倚掛つた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
蛇のやうに、醜悪な姿態しなをつくつて、街を歩いてゐる女をよく見かけるが、あれなどは酢を飲みすぎた女だな。
泥鰌 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
サルンで子供たちと戯れている時でも、葉子は自分のして見せる蠱惑的こわくてき姿態しながいつでも暗々裡あんあんりに事務長のためにされているのを意識しないわけには行かなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
此頃になると、感情のあらわし方もこまかく、姿態しなこまやかになっていたものであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
背中をわざと丸くするような姿態しなをする、髪の毛が一本ならべてめたような、おおかめさんのお供をしてきた大番頭の細君は、御殿づとめをしたという、大家の女房さんたちのするような
黒んぼの奴、すっかりお調子に乗って、いよいよ出でていよいよ妙ちきりんな姿態しなをする。跳ねる、飛ぶ、眼でび、股でひねる。日の丸も負けず劣らずである。味をやる、きいきい声を出す。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
忠一といふ、今度尋常科の三年に進んだ校長の長男が、用もないのに怖々おづおづしながら入つて来て、甘えるやう姿態しなをして健のつくゑ倚掛よりかかつた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「こうして、わしが持っていて上げる。あなたは女のようじゃ。人が問うたら、女じゃと答えなされ。女のように姿態しななされ。よいかの」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛇のやうに、醜悪な姿態しなをつくつて、街を歩いてゐる女をよく見かけるが、あれなどは酢を飲みすぎた女だな。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
これは葉子が人の注意をひこうとする時にはいつでもする姿態しなである。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「じゃあ、わたしのほうが、九ツも上だな。お針は上手だし、礼儀作法といい、人当りの姿態しなもよし……、武大ぶださんとやらがうらやましいね」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さつき膳を運ぶ時、目八分に捧げて、眞先に入つて來て、座敷の中央へ突立つた儘、「マア怎うしよう、私は。」と、仰山に驚いた姿態しなを作つたであつた。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
蘭沢は、大きな声で誰かに命令した、女が素つ裸で姿態しなをつくるのはなか/\難かしいものらしい、お麗さんは滑稽な感じに全身をくねらしてモデル台の上に現れた。
裸婦 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
女は兼好と枕をならべて、初めのうちは一つの姿態しなをもっていたが、やがてすっかり安心感を四肢ししにたるませて寝息に入った。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先刻さつき膳を運ぶ時、目八分に捧げて、真先まつさきに入つて来て、座敷の中央へ突立つた儘、「マア怎うしよう、私は。」と、仰山に驚いた姿態しなを作つたであつた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
蘭沢は、大きな声で誰かに命令した、女が素つ裸で姿態しなをつくるのはなか/\難かしいものらしい、お麗さんは滑稽な感じに全身をくねらしてモデル台の上に現れた。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
変り果てた朱実には、つい一年余ほど前の色も姿態しなもなかった。汚い負紐おいひもで、背なかには、二歳ばかりの嬰児あかごを背負っていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不容貌ぶきりやうな爲に拾手ひろひてが無かつたのだとでも見るかと思つてるからなので、其麽そんな女だから、何の室へ行つても、例の取て投げる樣な調子で、四邊あたり構はず狎戲ざれる、妙な姿態しなをする。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さまざまに羽で姿態しなをつくつて
さすがに、新妻のすがた——やわらかい姿態しな——女のにおいというようなものが、善信の旅にすがれた眸を、しみじみ、見入らせるのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と私は何氣なく云つたが、ハハア、此女が、存外眞面目な顏をしてるわいと思つたのは、ヤレ/\、これでも一種の姿態しなを作つて見せる積りだつたかと氣が附くと、私は吹出したくなつて來た。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして、そのためらいの間に、孫兵衛の殺念は、さかんな獣心と代り、ひとみはトロトロとお綱の姿態しなきついていった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と私は何気なく云つたが、ハハア、此女が、存外真面目な顔をしてるわいと思つたのは、ヤレ/\、これでも一種の姿態しなを作つて見せる積りだつたかと気が付くと、私は吹出したくなつて来た。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
なお、寄りすがって、紅涙雨の如き姿態しなであった。——ところへ、董卓はちょうから帰って来るなり、ただならぬ血相をたたえて彼方から歩いて来た。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、お芳は忽ちにして甘えた姿態しなをする。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さきに登子を乗せ、高氏もすぐあぶみを踏む。登子は、かいどりを被衣かつぎにした。袿衣うちぎなので、横乗りに、自然、鞍つぼの良人に甘えたような姿態しなになる。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男の尻を押し出して、あとの窓を閉め終ると、彼女はもう何食わぬ姿態しなだった。しぶしぶ蘭燈らんとうに明りを入れ、そしてお化粧台から階下したのぞいて舌打ちした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほころびたさを、姿態しなにも胸にも秘しながら、毎日、午すこし過ぎると、江戸千家へ茶の稽古に、なにがし検校けんぎょうのもとへは琴の稽古に、欠かすことなく通っていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が——そういう時には、女にはモジモジしているという受身の姿態しなが助けます。お蝶もそこで、娘らしい羞恥はにかみを作って、男の言い出す声を待つばかりでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が——女は、やや姿態しなを曲げてわざとのようにその時被衣かずきを横にして顔をかくして通った。で、綽空も
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふところに、こぶしをこしらえながら、宅助も睨んだ眼を向けたまま、黙って、女の姿態しなを見つめていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
哀れを乞うような、すがりついて泣きたいような、声なき想いを、眼と姿態しなにいわせて呂布へ訴えた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その姿態しなに、その横顔に、将門はふと、少年の遠い遠い日、厩舎藁うまやわらの蒸れるなかで、童貞の肌に初めて知った館の奴隷の女奴——蝦夷萩のおもかげを、心に思い出していた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と思うと、御方はまた手を代えて、さまざまに掻き口説いたり、見るも悩ましい姿態しなを見せた。男が悶々と悩み惑う時、年上の女はあらん限りの力で煩悩ぼんのうの誘惑をつづける。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人に接吻を求めるような姿態しなである。そのを顔へ近づけてやると、雀は、兼好の歯ぐきにはさまっていた今朝の汁の実の菜ッ葉を見て、ツイとくちるやいな喰べてしまった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、姿態しなを作って、横へ向き、後ろを見せ、そして武松の椅子いすの廻りをそっと巡り歩いた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紅絹もみや、西陣や、桃山染や、お甲のにおいが陽炎かげろうのように立つ。——今頃は河原の阿国おくに踊りの小屋で、藤次と並んで見ているだろうと、又八はその姿態しなや肌の白さを眼にえがく。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「思いつめておりました!」と、お米の姿態しなが白肌の蛇のように男の胸へからみついて
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちどは小鳥の起つような姿態しなをしめし、すぐ逃げ去ろうとしたかのようであった。——が、思い直したふうで、ふた足三足、近づいて来た。そして恐々こわごわ身をすこしかがめて訊ねた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女はすぐ姿態しなをかえた。やわらげて見せた眸は、女の大きな安心を意味していた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お軽の白いえり、つぶらな眼、その眼から、むしろ求めるような姿態しなが、ちらちら映る。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お蝶は、炬燵向うへフワリと坐って、その蠱惑こわく姿態しなを甘えるようにくずしながら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
於呂知は大ゲサにしかも姿態しなよく道誉の方へたおれてそのまま彼の膝に抱きついた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梯子段へひじをのせて、こういう調子なり姿態しななりが、毒婦のように妖美であった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姿態しな、ことば、水々しさを、その母親たるおかみさんは惚々ほれぼれと見ているのだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うつつなだけに、無心なだけに——お綱の姿態しなも、常より増してなまめかしい。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さういへば、彼女の體臭にも姿態しなにも、そんな風情がなくもない。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
俯し目になって、それだけをいい、どこかかない姿態しなであった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姿態しなをくねらせて、彼女は救いを乞うような火の息をあえいだ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)