塩辛しおから)” の例文
旧字:鹽辛
「お嬢さんが私にお父さんの綽名あだなを教えて下さいましたわ。何処かの中学校では閻魔えんま塩辛しおからとついていたそうでございます」
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
子供の時にきらいであった塩辛しおからが年取ってから好きになったといって、別に子供の時代の自分に義理を立てて塩辛を割愛するにも及ばないであろう。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
刺戟物ヤ塩辛しおからイモノモイケマセンナ、ソウ云ッテ相馬氏ハ、ルチンCヤ、セルパシールヤ、カリクレインヤ、イロイロトソノ方ノ薬ノ連用ヲススメ
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
友吉おやじの塩辛しおから声は、少々上ずっていたが、よく透った。ことに頭から日光を浴びたその顔色はすこぶる平然たるもので、むしろ勇気凜々たるものがあった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
驢車から蹴落すとともに、董卓の武士たちは伍俘の全身に無数の刃と槍を加えて、塩辛しおからのようにしてしまった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうでござんすな。格別これというものもありませんですからな。私ア塩辛しおからばかりなめていますんです。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三十六品のうちでお酒の肴にすると申した長崎のカラスミ、鹿児島のかつお煮取にとり、越前えちぜんのウニ、小田原の塩辛しおから、これだけは宅にありますから直ぐ間に合います。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
先日も、毛唐がどんなに威張っても、このかつお塩辛しおからばかりはめる事が出来まい、けれども僕なら、どんな洋食だって食べてみせる、と妙な自慢をして居られた。
十二月八日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
料理はダニューブの魚と野菜に独特な美味なものがあったが、味はどれも味噌みそに似たマヨネーズで統一をつけてあるためか、梶には少し単調にすぎて塩辛しおからかった。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
父の前には見なれた徳利と、塩辛しおからのはいった蓋物ふたものとが据えられて、父は器用な手酌で酒を飲んだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こんなことは久し振だ、いや肴はいらない、このうちで食えるのは塩辛しおからだけだ、この店のかつおの塩辛はちょっとしたものだが、この酒には合わない、肴はこの新香だけで充分だ。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「どうだ。後の奴も、海水の塩辛しおからいところをめて来たいか。希望者は、すぐ申出ろ」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
塩辛しおからい声を振り揚げる髪結い直次の音頭取おんどとりで、ひなびた合唱がまたそのあとに続いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かの女はあごを寒そうに外套がいとうの襟の中へ埋めた。塩辛しおからつば咽喉のどへそっとみ下した。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「変でしたよ、何処か荒っぽいところがあって——身扮みなりも言葉遣も大店の息子らしくはしていましたが、顔の色が妙に陽焦けがしているし、声が少し塩辛しおからで、手足も妙に荒れていましたね」
何時頃いつごろからの事か知らぬが、香以の家の客には必ずぜんが据えられ、さい塩辛しおからなど一二品に過ぎぬが、膳の一隅には必ず小い紙包が置いてあった。それには二分金がはいっていたそうである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
つめた挽割飯ひきわりめしと、大根だいこの味噌汁と、塩辛しおからく煮た車輪麩くるまぶと、何だか正体の分らぬ山草の塩漬しおづけこうものときりで、膳こそはきずだらけにせよ黒塗くろぬり宗和膳そうわぜんとかいう奴で、御客あしらいではあるが
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その肉は腥靭せいじんにして食うべからず、鱁鮧ちくい塩辛しおから」に製すればやや食うべし、備前および紀州の人このかい化して鳥となるといい、試みに割って全肉を見れば実に鳥の形あり、唐山にもこの説あり
歩行あるいたり、はて胡坐あぐらかいて能代のしろの膳の低いのを、毛脛けずね引挟ひっぱさむがごとくにして、紫蘇しその実に糖蝦あみ塩辛しおから、畳みいわしを小皿にならべて菜ッ葉の漬物うずたかく、白々と立つ粥の湯気の中に、真赤まっかな顔をして
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蕎麦そばのねりげに塩辛しおから添へて
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
また海胆うに塩辛しおから類の含有する回生の薬物についても科学はまだ何事をも知らないであろう。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
若者は黙っていかにも軽そうな容子ようすを見せた。が、ひたいから流れる汗は塩辛しおからかった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
魚類のはらわたなんぞは大概刺撃性の強いものですからアラ酒といって甘鯛のアラへお酒をかけて飲むと早く酔いますし、松魚かつお塩辛しおからの事は酒盗しゅとうという位ですし、海鼠腸このわた海胆うにも酒を酔わせます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、足軽の頭へ、幾つもなたをふり下ろして、塩辛しおからのようにしてしまった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほう、この花は、非常に煙硝えんしょうくさい。おや、それに、なめてみると、塩辛しおからいぞ、海水に浸っていたんだ。すると、この花は、船の上にあった花ではない、海の中にあった花だ。これは、ふしぎだ」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
塩辛しおからき浮世のさまかしち
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
塩辛しおからい。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
吉平のからだは見るまに塩辛しおからのように赤くくたくたになった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)