執念しふね)” の例文
「おツ母さんが出て行くと云ふのも、そりやア、元はと云やア」と、千代子は執念しふねくこちらに忠告するつもりらしかつた。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「人非人! 人非人奴! どれほどまで執念しふね妾達わたしたちを、苦しめるのでございませう。あゝ口惜しい! 口惜しい!」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
かれ自分じぶんにはつたときは、ふるすゝだらけの疎末そまつ建築けんちく燒盡やきつくして主要しゆえう木材もくざいわづかほのほいてつてる。執念しふね木材もくざい心部しんぶんでる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
くまでも昨日きのふしき懊惱なやみ自分じぶんからはなれぬとしてれば、なにわけがあるのである、さなくていまはしいかんがへ這麼こんな執念しふね自分じぶん着纒つきまとふてゐるわけいと。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
などゝ子供によくある執念しふねさで詰るやうに聞きたゞし始めた。敏夫も登三も默つてはゐなかつた。
小さき影 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
なんしや来たす此しとア。』と言つて、執念しふねくも自分等の新運命を頓挫させた罪を詰るのであつたが、晩酌に陶然とした忠太は、間もなく高いいびきをかいて、太平の眠に入つて了つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そんなことは他人ひとに云ふたつて仕方がありません。」と、辰男は冷やかに答へた。押し返して訊いても執念しふねく口を噤んで、他所目よそめには意地惡く見えるやうな表情を口端に漂はせた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
呉れぬ物がほ欲しくなるのは、殿様や子供の持つて生れた性分で、阿波の殿様は、望みとあらば何でも呉れてやらうから、たつて「天然研」を譲つて貰ひたいと執念しふねく持ちかけて来た。
硯と殿様 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
重右衛門も流石さすがに二の足を踏んだに相違ないが、余りに人から執念しふねく勧めらるゝので、それでは何うか好いやうにして下され、私等は、ハア、どうせ不具者かたはものでごすでと言つて承知して
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
子之介 むかしの罪を後悔して、毎月二日を命日に、佛事供養をかゝさず營んでくださる殿樣を、いまさら執念しふねく恨むのは……。もし、姉樣。父樣の死んだのは是非もない災難ぢやと……。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「東京も雪が降つてゐるかしら。」——こんな事を考へながら、信子はぢつとうす暗い茶の間の長火鉢にもたれてゐた。雪がいよいよ烈しくなつた。が、口中の生臭さは、やはり執念しふねく消えなかつた。……
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
みのるの心に執念しふねく繰り返された。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
首筋くびすぢかはけて戸口とぐちしたゝあといんしても執念しふね餌料ゑさもとめてまぬやうなかたちでなければならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
呉れぬ物がほ欲しくなるのは、殿様や子供の持つて生れた性分で、阿波の殿様は、望みとあらば何でも呉れてやらうから、たつて「天然研」を譲つて貰ひたいと執念しふねく持ちかけて来た。
が、大男は執念しふねく彼を放さなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
かれ身體からだやつれを自分じぶんでもつた。かれこのねんあひだ持病ぢびやう僂麻質斯レウマチス執念しふねほね何處どこかをみつゝあるやうにかんじた。あつ季節きせつになればかならいきほひをひそめた持病ぢびやうかれわすれてらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
くちなはのもの執念しふねさは
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)