たしなみ)” の例文
室は綺麗きれいに掃除されたり。床の間の掛物、花瓶かびん挿花さしばな、置物の工合なんど高雅に見えて一入ひとしおの趣きあるは書生上りの中川がたしなみあらず。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
平生ふだんよりは夜が更けていたんだから、早速おつとめ衣裳いしょうを脱いでちゃんとして、こりゃ女のたしなみだ、姉さんなんぞも遣るだろうじゃないか。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明和三年に大番頭おおばんがしらになった石川阿波守総恒の組に、美濃部伊織と云うさむらいがあった。剣術は儕輩せいはいを抜いていて、手跡も好く和歌のたしなみもあった。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それがついたしなみを忘れさせ、いまのお戯れをそうと知る暇もなく、真の父に手を執られたように覚えて、前後も忘れた嬉しさ、思わず、思わず……
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
笑ひたくなるは無理はなし、されど其処そこを堪へるもたしなみなり、親父が猿を使ふからは、今に奮発して獅子ししを使つて見せてやると気に張を持て、ほい違つた
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
重成の首は月代さかやきが延びていたが異香薫り、家康これ雑兵の首にまぎれぬ為のたしなみ、惜む可きの士なりと浩歎した。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
よめはうちゑみつゝしうとめにかくといへば、姑はにはか土産みやげなど取そろへるうちよめかみをゆひなどしてたしなみ衣類いるゐちやくし、綿入わたいれ木綿帽子もめんばうし寒国かんこくならひとて見にくからず
その牛込の帰りには長瀬時衡ながせときひら氏のお宅へ寄りました。飯田町いいだまち辺でしたろう。やはり陸軍の軍医をお勤めで、詩文のおたしなみがあり、お兄様とはお話が合うのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
第二十一条 文芸のたしなみは、人の品性を高くし精神をたのしましめ、之を大にすれば、社会の平和を助け人生の幸福を増すものなれば、亦れ人間要務の一なりと知る可し。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
他目よそめにもかずあるまじき君父の恩義惜氣をしげもなく振り捨てて、人のそしり、世の笑ひを思ひ給はで、弓矢とる御身に瑜伽ゆが三密のたしなみは、世の無常を如何に深く觀じ給ひけるぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
信仰ある、而して流石さすがに武士の子らしいたしなみです。下曾根さんは私共の東隣ひがしどなりの墓地に葬られました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小褄こづまを取るとたしなみの懐刀、懐中ふところへ入れるのも忙しく、後に続いて走り出た。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
荒町の亀惣かめそう様、本町の藤勘様——いずれ優劣おとりまさりのない当世の殿方ですけれど、成程奥様の御話を伺って見れば、たとえ男が好くて持物等のたしなみも深く、何をさせても小器用なと褒められる程の方でも
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それくらゐのたしなみはある筈だと思つたよ——お關の死んだ後で、あの部屋へ入つた人間が、この扱帶しごきを解いてわざと死骸を引つくり返し、匕首あひくちを左手に持ち換へさせて、人に殺されたやうに拵へたのだ
別家のようで且つ学問所、家厳はこれに桐楊とうよう塾と題したのである。漢詩のたしなみがある軍医だから、何等か桐楊の出処があろう、但しその義つまびらかならず。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五百が鍛冶橋内かじばしうちの上屋敷へ連れられて行くと、外の家と同じような考試に逢った。それは手跡、和歌、音曲おんぎょくたしなみためされるのである。試官は老女である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
子供の時に早飯はやめしと何とやらは武士のたしなみなんといって、人に悪く云われた事もあり、又自分でも早く食いたいとおもって居たが、何分にも頬張ほおばっ生噛なまがみにして食うことが出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
持っていたか、どんなに思いあがった、たしなみのない娘であったか、ようやくそれが分りましたわ、それで急いで帰って来ましたの、おめにかかって褒めて頂きたかったものですから
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日頃のたしなみも忘れて、しどろもどろに取亂して居ります。
さて暫く勤めているうちに、武芸のたしなみのあることを人に知られて、男之助おとこのすけという綽名あだなが附いた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たしなみがあったら、何とか石橋しゃっきょうでも口誦くちずさんだであろう、途中、目の下に細く白浪の糸を乱して崖に添って橋を架けた処がある、その崖には滝がかかって橋の下は淵になった所がある
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだ朝のたしなみの化粧もしては居りません。
武士のたしなみなり。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たしなみも気風もこれであるから、院長の夫人よりも、大店向おおだなむき御新姐ごしんぞらしい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)