トップ
>
嗄
>
しわが
ふりがな文庫
“
嗄
(
しわが
)” の例文
告白の最後には声が
嗄
(
しわが
)
れてしまって、まるで、死にともない老婆が、阿弥陀如来の前で、念仏を唱えて居るような心細い声になった。
死の接吻
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
ぼろぼろの皮衣に歩きながら手を通し、
嗄
(
しわが
)
れた寝呆け声で口汚なく罵りながら、寒さに縮み上って、渡船夫たちは岸に姿を見せた。
追放されて
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
やがて、「よいお子じゃ。」と
嗄
(
しわが
)
れた声で呟きました。「なかなか正直なよいお子じゃ。ラプンツェル、お前は仕合せな女だね。」
ろまん灯籠
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
嗄
(
しわが
)
れた鋭いその声……クリストフは即座に見てとった……エマニュエルを! あの……罪はないが原因となった不具の少年労働者。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
男はやがて、おしつぶしたような、かさけのある
嗄
(
しわが
)
れ声で、眼は依然おれをねめつけながら、ゆっくり、念をおすようにいった。
放浪作家の冒険
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
▼ もっと見る
そして人気なく寂然として、
蔓
(
つる
)
蔦
(
つた
)
の壁に
這
(
は
)
うた博士邸の古びた入り口に
佇
(
たたず
)
んで待つことしばし、やがて奥に
嗄
(
しわが
)
れた声が聞えたかと思うと
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
いくらか
嗄
(
しわが
)
れたような女の地声で繰り返していう。私はいきなり電話口へ自分の口をぴたりと押し付けたいほどの気になって
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
ふと、
嗄
(
しわが
)
れた、太い、力のある声がした。聞き覚えのある声だった。それは、助役の傍に来て腰掛けている小川という村会議員が云ったのだ。
電報
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
「……わたくし、まいれません」富美子はなにか物が喉につかえてでもいるような、乾いた
嗄
(
しわが
)
れた声で呟やくように答えた
花咲かぬリラ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
男はしばらく身動きもしなかったが、やがて静かにだがひどく
嗄
(
しわが
)
れた声で、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と唱えるのであった。
いのちの初夜
(新字新仮名)
/
北条民雄
(著)
それまでじっとしていらっしったのが、扇を
斜
(
ななめ
)
に相手の方を、透かすようにして御窺いなさいますと、その時その盗人の中に
嗄
(
しわが
)
れた声がして
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
と、不意に悲鳴が聞こえ、つづいて
嗄
(
しわが
)
れた笑い声が聞こえ、ザワザワと藪の鳴る音がし、その後はひっそりと静かになった。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
手早く
豆洋燈
(
まめらんぷ
)
に火を移しあたりを見廻わすまなざし
鈍
(
にぶ
)
く、耳そばだてて「我子よ」と呼びし声
嗄
(
しわが
)
れて呼吸も迫りぬと
覚
(
おぼ
)
し。
源おじ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
五六歩あるいた時、その男は私に
嗄
(
しわが
)
れた声で、——私の記憶の中には、どこにも、その様な声はなかった——「煙草を一本くれ」と言い出した。
虎狩
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
彼女は一種の痛ましい
嗄
(
しわが
)
れた音を立てて息をしていた。すすりなきがこみ上げてきて
喉
(
のど
)
がつまりそうだった。けれど泣くこともなし得なかった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
「さあ、そっくりしている様だが、まあ待ちなさい」探偵は
棺
(
かん
)
の中に横わる黒ずんだ腐れ
骸骨
(
がいこつ
)
の上に乗しかかるようにして見ながら
嗄
(
しわが
)
れ声で云った。
作男・ゴーの名誉
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
「どうも御無沙汰をしています。いつも御繁昌で結構ですこと。」と、女はすこし
嗄
(
しわが
)
れた声で懐かしそうに言った。
探偵夜話
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
雪之丞、だしぬけに、不思議な
嗄
(
しわが
)
れごえのつぶやきを耳にして、暗々たる
杜
(
もり
)
の中に、ハッと立ちすくんでしまった。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
敷布
(
シーツ
)
の先を伝わって、雨滴れの合間を縫って……そうしてその時も、地蟲の
嗄
(
しわが
)
れたような声を聴いたのである。
地虫
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
「一銭頂戴な」と声も
嗄
(
しわが
)
れた女乞食に掌を出され、猿ん坊のような着附をした男女がちょこなんと手を繋いでいるのに顔から頸筋まで
赭
(
あか
)
くしてテレながら
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そしてわが家の前へ
辿
(
たど
)
りついたときには目もくらみ耳もなり
嗄
(
しわが
)
れ声のひときれをふりしぼる力もありません。
桜の森の満開の下
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
あの押しつぶされたやうなみじめな
嗄
(
しわが
)
れ声で泣く赤ん坊——それも広い部屋のなかに二人か三人ぐらゐなものでしたが、産児室の夜勤をしてくらした十日ほどの経験を
死児変相
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
お民は、半ば
嗄
(
しわが
)
れた声で、そう叫びながら、提灯をさし上げて、一間ばかりのところを往ったり来たりした。しかし、墓地に這入って探してみようとは決してしなかった。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
司法主任から啣え直さしてもらった朝日を吸い吸い
嗄
(
しわが
)
れた、響の強い声でギスギスと話しだした。マン丸く開いた正直者一流の露骨な視線を、犬田博士の真正面に据えながら……。
S岬西洋婦人絞殺事件
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
その声は、この夏だというのに、想像も出来ぬほど、
寒
(
さ
)
む
寒
(
ざ
)
むとした
嗄
(
しわが
)
れた声だった。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
あらかじめ用意してあった鬘とつけ髯、博士のと同じ柄のパジャマ、博士の声を真似た
嗄
(
しわが
)
れた叫び声、月光がこれを助けたのです。わたしが月光の妖術といったのは、この事です。
偉大なる夢
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
すると、演壇に立っていた指導者らしい男が、またしても咽喉からしぼりだすような
嗄
(
しわが
)
れた声で何か叫んだと思うと、正面に陣どっていた一隊が、スクラムを組んだまま前へ進んでゆく。
早稲田大学
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
署長は癖のある
嗄
(
しわが
)
れ
声
(
ごえ
)
で桝本を見下ろすようにして、真っ向から訊きだした。
五階の窓:03 合作の三
(新字新仮名)
/
森下雨村
(著)
隣の寺の森に去年から急に鴉がやって来て、一番高い樹の上でああお・ああおと鳴くのを聞いていて、すぐ、それを
模倣
(
まね
)
して
了
(
しま
)
った。喉の
嗄
(
しわが
)
れたところまで、うまく、取入れているのである。
懸巣
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
「エエ、私は伯父が死骸の傍に立っているのを見ました。……然し殺された男は一体何者でしょう。無論パーク旅館で貴女を監禁した男と思いますが……」と坂口は
嗄
(
しわが
)
れたような声でいった。
P丘の殺人事件
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
その上彼の耳触りの悪い
嗄
(
しわが
)
れ声にも冷酷にあらわれていた。凍った白霜は頭の上にも、眉毛にも、また針金のような顎にも降りつもっていた。彼は始終自分の低い温度を身に附けて持ち廻っていた。
クリスマス・カロル
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
その男は
嗄
(
しわが
)
れた声で、家中に響き渡るように、
悲叫
(
ひきょう
)
を上げた。
暗号舞踏人の謎
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
妙に
嗄
(
しわが
)
れた高い声が、会堂の中からお松を追い駈けてきた。
反逆
(新字新仮名)
/
矢田津世子
(著)
博士は
嗄
(
しわが
)
れ声でどなるようにいいました。
怪塔王
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
声は
嗄
(
しわが
)
れ、顔は、涙によごれていた。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼は低い調子の
嗄
(
しわが
)
れた声で言った。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
力のない
嗄
(
しわが
)
れた聲でした。
銭形平次捕物控:304 嫁の死
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
嗄
(
しわが
)
れ声で、誰かが答えた。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
蘆笛を吹きながら鞭を鳴らしたり、
嗄
(
しわが
)
れただみ声で何やら言い返す。庭先へ羊が三匹迷い込んだ。出口が分らなくなって、垣根を頭でつつく。
女房ども
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
「
神田
(
かんだ
)
だ。」と重い口調で言った。ひどく
嗄
(
しわが
)
れた声である。顔は、老俳優のように
端麗
(
たんれい
)
である。また、しばらくは無言だ。ひどく窮屈である。
正義と微笑
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
鶏が
嗄
(
しわが
)
れた声で鳴いた。
曙
(
あけぼの
)
の最初の光が、一面に
濛
(
もう
)
と曇った窓ガラスを通して現われた。降りしきる雨におぼれた、悲しい
蒼白
(
あおじろ
)
い曙であった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
林の中に
嗄
(
しわが
)
れた誦経の声がひゞき渡ると、薪は点火せられ、戦死者は、煙に化して行くのだった。薪が燃える周囲の雪が少しばかり解けかける。
氷河
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
階段をあがりきった時でした、笑うとも嘲けるともたしなめるとも、どうともとれるような不思議な気味の悪い、鬼気を帯びた
嗄
(
しわが
)
れた女の声で
犬神娘
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
嗄
(
しわが
)
れた声でそれを言う態度が
如何
(
いか
)
にも哀願的で、又瀕死の老人といった印象を与えたので、私も其の
莫迦
(
ばか
)
げた依頼を引受けない訳に行かなかった。
南島譚:03 雞
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
グレーヴの刑場に見物人を呼び集める
嗄
(
しわが
)
れたわめき声が窓の下を通ってゆくのを聞くたびごとに、著者は右の痛ましい観念に再会して、それにとらえられ
死刑囚最後の日
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
嗄
(
しわが
)
れし声にて、よき火やとかすかに叫びつ、杖なげ捨てていそがしく背の小包を下ろし、
両
(
りょう
)
の手をまず炎の上にかざしぬ。その手は震い、その
膝
(
ひざ
)
はわななきたり。
たき火
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
と
嗄
(
しわが
)
れた声でウェンデルが呼んだ。そして、その大きな身体がいきなり
背後
(
うしろ
)
から
羽交締
(
はがいじめ
)
にしてしまった。
令嬢エミーラの日記
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
その
外
(
ほか
)
は机も、魔法の書物も、床にひれ伏した婆さんの姿も、まるで遠藤の眼にははいりません。しかし
嗄
(
しわが
)
れた婆さんの声は、手にとるようにはっきり聞えました。
アグニの神
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「そうそう」とガロエイ卿も
嗄
(
しわが
)
れ声を出して、「それからオブリアン君も居らんようですが、私はあの人を、死体がまだ
温
(
あたたか
)
った時にお庭を歩いておるのを見かけましたが」
秘密の庭
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
「あんまり気味のいい絵でもないわねえ。いかにもあの古島さんらしいわ……」と、いつのまにか千恵の後ろに立つてゐたHさんが、持前のがさがさした
嗄
(
しわが
)
れ声で言ひました。
死児変相
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
嗄
漢検1級
部首:⼝
13画
“嗄”を含む語句
皺嗄声
皺嗄
嗄声
咳嗄
嗄枯
嗄々
嗄聲
洒嗄
老嗄
薄嗄