喜悦きえつ)” の例文
信長の喜悦きえつは、非常なものだった。播州ばんしゅう一円にとどまっていた自己の勢力が、初めて備前へ踏み込んだ最初の一歩として大きな意義がある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たゞされしかば富右衞門の女房にようばうみね其子城富は申に及ばず親族しんぞくに至る迄みな大岡殿の仁智じんちを感じ喜悦きえつなゝめならずことさらに實子城富は見えぬなみだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うれしいに違いない、自慢をしてもよいに違いない。嬉しがる、自慢をする。その大金は喜悦きえつ税だ、高慢税だ。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そう聴いた青年の面に、ある喜悦きえつの表情が、浮んでいるのが、美奈子は気が付かずにはいられなかった。その表情が、美奈子の心を、むごたらしく傷けてしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は「夫」を心から嫌っているには違いないが、でもこの男が私のためにこんなにも夢中になっているのを知ると、彼を気が狂うほど喜悦きえつさせてやることにも興味が持てた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いまから三四時間じかんのちには、目的もくてきのコロンボ附近ふきん降下かうかして、櫻木大佐さくらぎたいさより委任いにんされたる、此度このたび大役たいやくをも首尾しゆびよくはたこと出來できるであらうと、たがひ喜悦きえつまゆひらときしも
さう、其處に僕の光榮と喜悦きえつがあります。僕は全能のしゆしもべです。僕は人間の導きで——僕と同じ被造物の缺點だらけな法則と間違ひだらけな統御を受けて行くんぢやありません。
そして悲惨の容器であった古き世界は、人類の上にくつがえって喜悦きえつつぼとなったのです。
その時の感謝と喜悦きえつとを想像で描き出して、小説でも読むように書いてあります。僕は岡君の手紙を読むと、いつでも僕自身の心がそのまま書き現わされているように思って涙を感じます。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
また人類のまだ純潔であった時代の祖先らの労働と喜悦きえつとであったのであるから、今この庭を造る人のいかにも不安らしい様子を見ていると、青年はなんとはなしに一種の怪しい恐怖をおぼえた。
渓谷けいこくのような深い失望から、たちまち峻岳しゅんがくのように高い喜悦きえつへ、——。
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
喜悦きえつに満ちた力いっぱいのふるえを帯びた声だ。
汽笛 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
苦桃太郎にがもゝたらう喜悦きえつあさからず、こしなる髑髏どくろ一個ひとつ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は驚愕と喜悦きえつの為に、顔が真赤になった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、加賀見忍剣かがみにんけん龍太郎りゅうたろうやまた咲耶子さくやこにいたるまで、みなこの報告を天来の福音ふくいんときいて武田再興たけださいこう喜悦きえつにみなぎり、春風陣屋じんやにみちてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入院してから七度台に熱の下がったのはこの朝が始めてだったので、もう熱の剥離期はくりきが来たのかと思うと、とうとう貞世の命は取り留めたという喜悦きえつの情で涙ぐましいまでに胸はいっぱいになった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
曹操は、限りなく喜悦きえつして、さらばとばかり、直ちに、檄文げきぶんを認めて、城中へ矢文を射させた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将監の書状を巻き納めながら、彼がよだれを垂らさんばかりな喜悦きえつをあらわしたのは無理もない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翡翠ひすい耳環みみわが充血したうなじで小さく揺れ、そのまなじりのものは、喜悦きえつを待ちれる感涙に濡れ光り、一種の恐怖と甘い涙のしたたりが、グッショリと、もみあげの毛まで濡らしている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老兵勝家が、わが術成れり、と喜悦きえつ斜めならず、それを甥の玄蕃允の殊勲しゅくんとして
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はそれを携えて葭萌関かぼうかんにある玄徳にまみえ、さすがに喜悦きえつの色をつつみきれず
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、いったところ、鹿之介は喜悦きえつして、すぐそれを受けたという噂なのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、龍山公はたちまち、喜悦きえつを満面にみなぎらして、脇息きょうそくから乗り出された。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と信玄は、作戦の図にあたって来たことを喜悦きえつしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天皇のご喜悦きえつはもちろん、公卿、全山の将士も
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やッと巡り会ったという風に、喜悦きえつを誇張して
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)