和歌うた)” の例文
さかずきのめぐるままに、人々の顔には微醺びくんがただよう。——詩の話、和歌うたの朗詠、興に入って尽きないのである。と、思い出したように
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑司ぞうし御墓おはかかたわらには、和歌うた友垣ともがきが植えた、八重やえ山茶花さざんかの珍らしいほど大輪たいりん美事みごとな白い花が秋から冬にかけて咲きます。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「いや、お前は和歌うたをやりそうじゃ、さいぜん、あの墓の前でふとお前の姿を見た時に、絵に見る卒塔婆小町そとばこまちを思い出したよ」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
君はこう云う「和歌うた」知ってるかい? 「なげきわび 身をば捨つとも かげに 浮名うきな流さむ ことをこそ思え……」
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
園は母がつくつた海棠の和歌うたの数々に節をつけて口吟みながら薄明けの街道を進んでゆくと、父やみわの脂臭い姿が、もう別世界の幻のやうに遠退くだけで
淡雪 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
めいは別に無いようだがこの文句は銘の代りでもなさそうだ。といって詩でもなし、和歌うたでもなし、漢文でもないし万葉仮名でもないようだ。何だい……これあ……」
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
姉樣ねえさま御覽ごらんれよかし、おまへめられなばれとてもうれしきものをと可愛かあゆふに、おもひある一層いつそうたのもしく樣々さま/″\機嫌きげんりて、姉樣ねえさまさだめし和歌うたはお上手じやうずならん
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
和歌うたを作つてるのよ。新派の和歌うた。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「おッ、これは例の和歌うただ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「先生、わたくしは和歌うたをつくりたいと思っていますけれど、思うように出来ませんが、どうしたらよろしうございましょう」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
内蔵助との知縁は、その国学の講義に列した折と、和歌うた添削てんさくなどを時折消息でしてもらった交渉などから初まっていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「嘆きわび 身をば捨つとも 亡き影に 浮名流さむ ことをこそ思え……」僕あ、この頃、この和歌うたの意味がつくづく分って来たような気がするよ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「そんな答へをきくために訊いたんぢやないよ。たゞ月の美しさを種々いろ/\と賞めてゐるだけなんだよ、和歌うたのやうな気分で! どうしてお前はさう馬鹿なんだらう。」
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
『踏絵』の和歌うたから想像した、火のような情を、涙のように美しく冷たいからだで包んでしまった、この玲瓏れいろうたる貴女きじょを、貴下あなたの筆でいかしてくださいと古い美人伝では、いっている。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
時鳥ほとヽぎす時分じぶんをさがしてかへるなどをみちくさにさし、れをはせておわびをするとか、れは本當ほんたう本當ほんたうはなしにて和歌うたにさへめば、姉樣ねえさまきてもわかることヽ吾助ごすけひたり
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
出放題の和歌うたを詠んでは人を笑わせ、縁を取持っては人間の種をアチコチに蒔いてまわるのが何よりの道楽で……棄てた水仙、すいゆえ身故、水に濡れ濡れ花が咲く……とか申しますなあ。
「しかし、僧正の時雨しぐれのお歌は、あまりにも、実感がありすぎるというて、女を知らぬ不犯ふぼんの僧に、かような和歌うたの作れるわけはないというのです」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはそうでしょうけれども、せめて形だけでも、ほんの門の中へ入ってみるだけでもよろしいんです……和歌うた
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうしても、和歌うたの一つも書きつけているものでなければ、こうは嗜みが出来ないはずと思ったからです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石町三丁目の浪宅へ連れて、茶など出して、努めて、話題を和歌うたとか国学者のうわさなどへ誘っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十八公麿まつまろをつれてきたことや、衣服の改まって見えることや、座談のあいだに、慈円も、今日の彼の訪問が、いつもの和歌うたの遊びや、閑談でないことは、察していた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは御同様ですよ。また思うように和歌うたが出来た日には、人麿ひとまろや、貫之つらゆきが泣きますからね」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
で——今見かけたその和歌うたから、少年の頃の記憶がよみがえって来たのであろう。緩々かんかんたる牛の背で武蔵はなにげなく、その和歌うたっていた太平記の一章を、口のうちでそら読みした。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たしなみがよい、お前は和歌うたをやりますか」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
和歌うたをやるか。では、わしにもすこし古今調こきんちょうを手ほどきしてくれい。万葉もよいが、いっそこうびた草庵のあるじになってみると、やはり山家集あたりの淡々としたところがよいの」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へえ、承知でございます、お頼まれ申した通り、神尾の殿様のなさることは一から十まで、わっしが方へ筒抜けになっていますから、今日なんぞも一蓮寺の和歌うたの会へお出かけなさって、まだおけえりのねえことまで、ちゃんと心得ているのでございます」
「明石の浦に、和歌うたのお師、冷泉為定さまの古いお家がありますので」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)