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むかうがは
すると、大麓氏は、「へえ、中沢君が油絵を
描く。」と言つて、不思議さうに
卓子の
向側にゐた中沢博士の顔を見た。「それは初耳だ、
真実ですか。」
「
博勞なんちい
奴等は
泥棒根性無くつちや
出來ね
商賣だな、
嘘らつぽう
打んぬいて、
兼等汝りや、
俺れことせえおつ
嵌める
積しやがつて」
兼博勞の
向側から
戯談らしい
調子でいふと
表の
窓際まで
立戻つて
雨戸の一枚を
少しばかり引き
開けて
往来を
眺めたけれど、
向側の
軒燈には酒屋らしい
記号のものは一ツも見えず、
場末の
街は
宵ながらにもう
大方は戸を
閉めてゐて
女中の
方は、
前通りの
八百屋へ
行くのだつたが、
下六番町から、
通へ
出る
藥屋の
前で、ふと、
左斜の
通の
向側を
見ると、
其處へ
來掛つた
羅の
盛裝した
若い
奧さんの
麹町、
番町の
火事は、
私たち
鄰家二三軒が、
皆跣足で
逃出して、
此の
片側の
平家の
屋根から
瓦が
土煙を
揚げて
崩るゝ
向側を
駈拔けて、いくらか
危險の
少なさうな、
四角を
曲つた