-
トップ
>
-
むかうがは
表の
窓際まで
立戻つて
雨戸の一枚を
少しばかり引き
開けて
往来を
眺めたけれど、
向側の
軒燈には酒屋らしい
記号のものは一ツも見えず、
場末の
街は
宵ながらにもう
大方は戸を
閉めてゐて
女中の
方は、
前通りの
八百屋へ
行くのだつたが、
下六番町から、
通へ
出る
藥屋の
前で、ふと、
左斜の
通の
向側を
見ると、
其處へ
來掛つた
羅の
盛裝した
若い
奧さんの
麹町、
番町の
火事は、
私たち
鄰家二三軒が、
皆跣足で
逃出して、
此の
片側の
平家の
屋根から
瓦が
土煙を
揚げて
崩るゝ
向側を
駈拔けて、いくらか
危險の
少なさうな、
四角を
曲つた