可懷なつか)” の例文
新字:可懐
人間界にんげんかいではないものを……と、たついま亭主ていしゆなれたやうなこゑをして、やさしい女房にようばうなみだぐむ。おもひがけない、可懷なつかしさにむねせまつたらう。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その赤い色がいかにも可懷なつかしく、ふら/\と私は立ち寄つた。思ひがけぬ時刻の客に老爺は驚いて小屋から出て來た。
比叡山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
何故といふに、田舍に居る身内のものから遠く離れた私には、左樣いふ草餅の香氣にほひなどを嗅ぐほど可懷なつかしい思をさせるものが有りませんでしたから。
茹栗ゆでぐり燒栗やきぐり可懷なつかし。酸漿ほうづきることなれど、丹波栗たんばぐりけば、さととほく、やまはるかに、仙境せんきやう土産みやげごと幼心をさなごころおもひしが。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今は早や凝つた形の雲とては見わけもつかず、一樣に露けくうるんだ皐月さつきの空の朧ろの果てが、言ふやうもなく可懷なつかしい。次いでやや暫くの間、死んだやうな沈默がこの室内に續いてゐた。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
かへつて、るにしたがつて、物語ものがたりきさしたごとく、ゆかしく、可懷なつかしく、みるやうにつたのである。……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さじとかこ魂棚たまだな可懷なつかしき面影おもかげに、はら/\と小雨こさめ降添ふりそそでのあはれも、やがてがた日盛ひざかりや、人間にんげんあせり、蒟蒻こんにやくすなり、はへおとつぶてる。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
四萬六千日しまんろくせんにち八月はちぐわつなり。さしものあつさも、のころ、觀音くわんのんやまよりすゞしきかぜそよ/\とおとづるゝ、可懷なつかし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
眞夏まなつ日盛ひざかりの炎天えんてんを、門天心太もんてんこゝろぷとこゑきはめてよし。しづかにして、あはれに、可懷なつかし。すゞしく、まつ青葉あをば天秤てんびんにかけてになふ。いゝこゑにて、ながいてしづかきたる。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……おもへばそれも可懷なつかしい……
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)