取分とりわ)” の例文
村々の隣に遠く野山の多い地方では、取分とりわけてこの類の神隠しが頻繁ひんぱんで、哀れなることには隠された者の半数は、永遠にかえって来なかった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
待つ身の辛さは今に始めぬことであるが、取分とりわけていまの場合、市郎は待つ身の辛さと侘しさとを染々しみじみ感じた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いぶし火鉢ひばち取分とりわけて三じやくゑん持出もちいだし、ひろあつめのすぎかぶせてふう/\と吹立ふきたつれば、ふす/\とけふりたちのぼりて軒塲のきばにのがれるこゑすさまじゝ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
じつ以前いぜんに、小山内をさないさんが一寸ちよつと歸京ききやうで、同行いつしよだつた御容色ごきりやうよしの同夫人どうふじん、とめさんがお心入こゝろいれの、大阪遠來おほさかゑんらい銘酒めいしゆ白鷹はくたかしか黒松くろまつを、四合罎しがふびん取分とりわけて
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取分とりわけて申候迄まうしさふらうまでもなし実際においてかゝる腑甲斐ふがひなき生活状態の到底たうてい有得ありうべからざるとなり申候まうしそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
けてのきばに風鈴ふうりんのおとさびしや、明日あす此音このおといかにこひしく、此軒こののきばのこと部屋へやのこと、取分とりわけては甚樣じんさまのこと、父君ちヽぎみのこと母君はヽぎみのこと、平常つねまでならぬ姉妹しまいのこと
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
取分とりわけて女には嫌われたり、だまされたり……。まったく哀れな人間です。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひきかへてたづねぬならねどづればれとははれぬおしゆうのもとへまた見出みだされて二おんあるがなかにも取分とりわけてじやうさまの御慈愛おいつくしみやまうちみねたかきがうへたかうみうち沖深おきふかきがうへふかしお可愛かあいびと
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)