博奕打ばくちうち)” の例文
「もう一人の男は、鐵之助といふ遊び人で、松前鐵之助と違つて、股旅またたびの鐵之助といふちよいと苦み走つた、好い男の小博奕打ばくちうちで」
着物を取ったんは泥坊と違うて博奕打ばくちうちやいうのんです、それがだんだん聞いてみますと、ほんまに悪いことは出来でけへんもんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「それよか、旦那あ、なぜ一本ですむ物を二本差して、窮屈きゅうくつがっているよりも、さらりと、博奕打ばくちうちにでもならないのか、わしゃあ、ふしぎ……」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
儒者の荻生惣右衛門をぎふそうゑもんの隣りに、俳人宝井其角が棲んでゐたやうに、この社会主義者の隣りに博奕打ばくちうちが一にん住まつてゐた。
雪嶺さんの子分——子分というと何だか博奕打ばくちうちのようでおかしいが、——まあ同人といったようなものでしょう、どうしても取り消せというのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清河が集めた浪士と申したところが、やはり浪士・浪人の区別はないので、百姓もあれば神主もあり、博奕打ばくちうちもある。小泥坊さえあったのであります。
話に聞いた近藤勇 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
博奕打ばくちうちが相手の懐合ふところあいを勘定したり、掏摸すりやインチキ師が「感付かれたな」と感付いたり、馬道うまみちあたりの俥屋が
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
勝負事の好きなものは博奕打ばくちうちになる。おべんちゃらの巧い奴は旅商人たびあきんどになる。碁打ちになる、俳諧師になる。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一体フランス人は博奕打ばくちうちと酒飲ばかりだ。とう/\博奕に負けて悪魔に王様の首を取られた。
センツアマニ (新字旧仮名) / マクシム・ゴーリキー(著)
勘六は博奕打ばくちうちだといっていた。東京深川のなにがし組で、かつてはあにい分だったという。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
上方者かみがたもんなんです、京都のみぞろというところに生れた奴なんです、が若い時分から博奕打ばくちうちの仲間入りをして諸方を流れて歩いた揚句に、本来やくざじゃあるが小才こさいく奴でして
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芸者、芸人、鳶者とびのもの、芝居の出方でかた博奕打ばくちうち、皆近世に関係のない名ばかりである。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
立退て江戸に滯留中たうりうちう鈴が森にて十七屋となつやの金飛脚を殺し金子五百兩うばひ取しが惡事の仕納しをさめなりと咄しければ三五郎聞てまゆをひそめ夫は博奕打ばくちうちや盜賊を殺してとるかねは同じ罪でも罪はかるし唯の者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「嘘は無え。盗つ人の尻押しにや、こりや博奕打ばくちうちが持つて来いだ。」
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
へえ天国に入れてもらいます……ばか……おやじが博奕打ばくちうちの酒喰らいで、お袋の腹の中が梅毒かさ腐れで……俺の眼を見てくれ……沢庵たくあん味噌汁みそしるだけで育ち上った人間……が僣越ならけだものでもいい。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と赤羽君は博奕打ばくちうちの真似をした。大喝采だった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
七草や腕のきたる博奕打ばくちうち 同
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
孤児みなしごになって、茶屋奉公に売られたり、博奕打ばくちうちの女房になってみたり、神風楼しんぷうろう花魁おいらんにまで身を落しても、これだけは肌身に着けていたんです。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水茶屋の茶汲女ちゃくみおんなで年を喰って、酔っ払いも武家も、御用聞も博奕打ばくちうちも、物の数とも思わぬ面魂つらだましいです。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その隣りの博奕打ばくちうちが、大勢同類を寄せて、互に血眼ちまなここすり合っている最中に、ねんね子で赤ん坊をおぶったかみさんが、勝負で夢中になっている亭主をむかえに来る事がある。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野次馬に覗かれないように表の板戸をおろしかけていた博奕打ばくちうちの藤六という宿屋の親仁おやじがヒョコリと頭を下げて通してくれた。こっちも頭を下げながら出会いがしらに問うた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
勘六は博奕打ばくちうちだといっていた。東京深川のなにがし組で、かつてはあにい分だったという。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
殺し金百兩盜みたる者ある由噂仕つるにより扨は勘太郎が仕業しわざなるかたゞし外に喧嘩けんくわでも致したるかと思ふに中裁なかなほりの沙汰もなく博奕打ばくちうちの喧嘩なれば是非沙汰のあるはずなるに一向何のはなしもないは彌々いよ/\以て女隱居を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鹿沼かぬまの、博奕打ばくちうち、玉田屋の酉兵衛とりべえは、この一夏で、日光の出開帳でかいちょうから上げた寺銭の大部分を、今、連れてゆく、孫のようなお八重の身代金に、投げだしたといわれていた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先代総七は実弟の勝造を蛇蝎だかつのごとく嫌っていたのは隠れもない事実で、その娘のお勇では改めて養子を容れる世話もあり、博奕打ばくちうちの勝造が出しゃ張っては、店の信用にも拘わるので
この庄兵衛と、さかずきを飲み分けた弟分で、「鼻猪之はないの」と云われる博奕打ばくちうちがいた。
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
して居たりけるこゝまた慈恩寺村にて大博奕おほばくち土場どばが出來鴻の巣なる鎌倉屋金兵衞と云ふ名稱なうて博奕打ばくちうちが來りて大いに卻含はづみ金兵衞は五百兩ばかりかちし折柄自分の村方に急用きふよう出來せしによりいそ歸村きそんせよと飛脚の來りける故仲間なかまかくつげ振舞ふるまひなどを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
祖先傳來の浪人ではしにも棒にも掛らぬ手合があり、押借おしがり強請ゆすり、喧嘩口論を渡世にする者も、博奕打ばくちうちや裕福な町人の用心棒になつて生涯をブラブラと暮して了ふ者も少なくはなかつたのです。
博奕打ばくちうちのね」と芳村は云った、「あなたなどは知らないだろうが、賭場とばのたつときとか、博徒ばくとどうしの争いなどに、この刀を役立てるというわけです、人間のくずでなければやらない仕事ですがね、 ...
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)