午過ひるす)” の例文
品川へ着いたのはもう午過ひるすぎ、平次はいきなり町内の外科へ飛込み、無理に頼み込んで、見世物小屋まで医者と一緒に行きました。
ある時は、朝早くから訪れて午過ひるすぎまで目ざめぬ人を、雪の降る日の玄関わきの小座敷につくねんと、火桶ひおけもなくまちあかしていたこともあった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今でもはっきり覚えていますが、それは王氏の庭の牡丹ぼたんが、玉欄ぎょくらんそとに咲き誇った、風のない初夏の午過ひるすぎです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
太田は別に思案もないので、佐佐に同意して、午過ひるすぎに東町奉行稲垣をも出席させて、町年寄五人に桂屋太郎兵衛が子供を召し連れてさせることにした。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
不動様のお三日さんにちという午過ひるすぎなぞ参詣戻りの人々が筑波根つくばね繭玉まゆだま成田山なりたさん提灯ちょうちん泥細工つちざいく住吉踊すみよしおどりの人形なぞ
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三日目みつかめ午過ひるすぎ、やれかゆろの、おかう/\をこまかくはやせの、と病人びやうにんが、何故なぜ一倍いちばい氣分きぶんわるいと、午飯おひるべないから、打棄うつちやつてはかれない。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼女が来て二十日ほど経ったある宵のこと、午過ひるすぎから来ていた四五人の女客を送出して、蝙也が居間へ入ってみると、町が悄然しょうぜんと窓際に坐って涙を拭いていた。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
津田はまとまらない事をそれからそれへと考えた。そのうちいつか午過ひるすぎになってしまった。彼の頭は疲れていた。もう一つ事を長く思い続ける勇気がなくなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
叔父にお庄と植木屋と、この三人が翌日に死んだ赤子を谷中やなかの寺へ送って、午過ひるすぎに帰って来ると、母親は産婦に熱が出たと言って、心配そうに一同を待っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三日程前の午過ひるすぎ、友人に頼まれた或る本を探すために、本郷通りの古本屋を一通りあさった私は、かなり眼の疲れを覚えながら、赤門前から三丁目の方へ向って歩いていた。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この日、彼は午過ひるすぎからわずかな従者を具して、城外へ出た。身装みなりも軽装だし、常に左右におく重臣すら連れていない。けれど特に触れなくても、城門の将士にいたるまで
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬近い冴えた日ざしが午過ひるすぎの河原町の長い、だが人気のない通り一杯に溢れてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
今宵はとおもはれし日の午過ひるすぎて、われは羅馬の御館みたちに參りしに、檀那はチヲリに往き給ひし後なりき。歸りて見れば、母は息絶えたり。言ひをはりて、ピエトロは手もて面をおほひぬ。
その日の午過ひるすぎ頃、庸介の父は、その日の最後の患者であった中年の百姓女の右の乳の下の大きな腫物はれものを切開して、その跡を助手と看護婦とが二人がかりで繃帯ほうたいをなし終えるのを見ると
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
いよいよ今日の午過ひるすぎにお暇を貰うことと極っていたので、主人らの昼飯が終って後ちに台所の片隅で自分の昼飯をもすませ、さて自分の膳として与えられたままに今日まで用いて来た古膳も
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
子犬の生れた騒ぎに、猫のミイやが居ないことを午過ひるすぎまで気付きづかなかった。「おや、ミイは?」と細君さいくんが不安な顔をして見廻みまわした時は、午後の一時近かった。そうがかりで家中探がす。居ない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
安政二年三月四日の午過ひるすぎに、不思議な人間が品川沖にあらわれた。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人も見えね御嶽山道みたけさんだう風埃かざぼこり目にたちてしろき午過ひるすぎにけり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
入谷へ行き着いたのは午過ひるすぎ、役人は歸つてしまつて、三輪の萬七とその子分のお神樂かぐらの清吉が、とむらひ客を睨め廻すやうに入口の一と間に陣取つて居りました。
饂飩うどんを煮る湯気が障子の破れから、吹いて、白く右へなびいた頃から、午過ひるすぎは雨かなとも思われた。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが秋の午過ひるすぎを、揺々ようようと、動くが如く、動かぬがごとく、いわゆる戦気満々に、発向はっこう——の一令を待っているのが、武者のみか、馬までが、もどかしげに見えるのだった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行く秋の曇った午過ひるすぎは物の輪廓を没して、色彩ばかり浮立つ幻覚に唯だどんよりと静まり返っているのです。しかし折々落ち残った木の葉が、忽然こつぜんとして一度にはらはらと落ちます。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この蔀君が僕の内へ来たのは、川開きの前日の午過ひるすぎであった。あすの川開きに、両国をあとに見て、川上へ上って、寺島で百物語の催しをしようと云うのだが、行って見ぬかと云う。主人は誰だ。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「全くいけませんでしたね。降っても構わずにやるというから、わたしもこれからちょいと行って見ようかと思っているんですがね。少し雲切れがしているから、午過ひるすぎからは明るくなるかと思いますが、なにしろ花時ですから不安心ですよ」
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入谷へ行き着いたのは午過ひるすぎ、役人は帰ってしまって、三輪の万七とその子分のお神楽かぐらの清吉が、とむらい客をめ廻すように入口の一と間に陣取っておりました。
とにかくその賑やかなささら歌や笑い声の興もまだ尽きない午過ひるすぎ頃のことだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高札こうさつの立った日には、午過ひるすぎに母が来て、女房に太郎兵衛の運命のきまったことを話した。しかし女房は、母の恐れたほど驚きもせず、聞いてしまって、またいつもと同じ繰りごとを言って泣いた。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、献じに来るものやら、午過ひるすぎては、休養どころか、門前市をなすばかりだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて六月朔日ついたちは近年にない暑さだった。朝から雲一つなく照りつづけ、午過ひるすぎてからは北の空の一方は雲の峰におおわれたが、なお暮れるまで夕陽ゆうひの熱と光は丹波の山河をいていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
午過ひるすぎの半日も、工事場は、そんな空気で暮れかけた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日の午過ひるすぎである。まだ暑い盛り。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まず、午過ひるすぎまでには」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)