別荘べっそう)” の例文
旧字:別莊
私がこの日頃そこに近寄るのを努めてけるようにしていた、私のむかしの女友達の別荘べっそうの前を通らなければならないことを認めたのだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「おくさんはヴヴェーに別荘べっそうを持っておいでだ。だがどのへんだかわからない。なんでも夏はそこへ行ってくらすことになっているのだ」
橋本さんで朝御飯あさごはんのごちそうになって、太陽が茂木もぎ別荘べっそうの大きなまきの木の上に上ったころ、ぼくたちはおじさんに連れられて家に帰った。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
著しつつあるサラット・チャンドラ・ダースという方がダージリンの別荘べっそうに居る。そこへ行けばあなたの便宜を得らるるだろう
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
だから、まるで気もちのいい山の上の別荘べっそうの部屋にいるような気がし、また気もちのいい春か秋かのころ、街道かいどうを散歩しているようでもあった。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
別荘べっそうができ、りっぱなまちができましたけれど、庭園ていえんから主人しゅじんされるがきました。そして、主人しゅじんもまた、流浪者るろうしゃとなってしまったのです。
花咲く島の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
別荘べっそうがつづく高台たかだいをかけ抜けると、町へ下るながい坂になっている。町へにげれば、追ってくる透明人間を、そこでとらえることができると博士は考えていた。
そして、この別荘べっそうへはじめて来たときかぶってた、赤いリボンの帽子ぼうしを着け、きれいなふくを着ていました。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「まあ、気味の悪い。きっとまた御隣の別荘べっそうの坊ちゃんが、悪戯いたずらをなすったのでございますよ。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このひとがたったひとこと言いさえすれば、テームズ河のほとりに光りかがやく家が立つのです。たったひとこと言いさえすれば、ナポリの入江近くに別荘べっそうが立つのです。
おそらく父自身にしても、今ではもう別荘べっそうに残っていたくはなかったろう。ただし、父は、この際になってまた一悶着ひともんちゃくもちあげないように、首尾しゅびよく母を説きつけたらしかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
おまえは、なかなか承知しょうちしないのね。でも、あたしには、そのさきも予言よげんできます。がいせんした将軍しょうぐんたちが、みずうみきしに、御殿のように、りっぱな大きい別荘べっそうを建てるようになります。
と奥様は特にうちとけたご挨拶あいさつだった。正三君は家へ帰って転学の手つづきをすませた。それから月末ご三男様がお兄様方と一しょ大磯おおいそ別荘べっそうからお帰りになるとすぐおやしきへひきとられた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私はしばしばその少女と連れ立って、夕食後など、宿の裏の、西洋人の別荘べっそうの多い水車の道のあたりを散歩するようになっていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さてわたしたちは日の出ごろ宿やどをたって、別荘べっそうのへいに沿って、そのブアシー・セン・レージェの村を通りぬけて、とある坂の上にさしかかった。
今年ことし夏休なつやすみに、正雄まさおさんは、かあさんやねえさんにれられて、しま別荘べっそう避暑ひしょにまいりました。
海の少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
赤とんぼの休んでいる竹には、朝顔あさがおのつるがまきついています。昨年さくねんの夏、この別荘べっそうの主人がえていった朝顔の結んだ実が、またえたんだろう——と赤とんぼは思いました。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
彼らの借り入れた別荘べっそうが、カルーガ関門のほとり、ネスクーチヌィ公園の前にあったのである。——わたしは大学の入学準備をしていたが、勉強といってもろくにせず、ゆっくり構えていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
このすばらしいたくさんの別荘べっそうが、やっぱりこの地方ちほう名誉めいよになるのです。
「この別荘べっそうを持っている人も震災以来来なくなったんだね。……」
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、ここに別荘べっそうてます。うつくしいはないているし、果物くだものは、みのっているし、温泉おんせんがわいている。こんないいところはありません。どんなうつくしいひともくるでしょう。
花咲く島の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところで、この町からすこし南のほうにあたって、海からあまり遠くないところに、ロンネビューの温泉場おんせんばがあります。そこには温泉や温泉宿おんせんやどや春のお客のためのホテルや別荘べっそうなどもあります。
ある人はわたしたちを山の中腹ちゅうふくつくりかけた別荘べっそうへ行かせた。また一人は、その人たちは湖水のそばに住んでいると断言だんげんした。なるほど山の別荘に住んでいるのもイギリスのおくさんであった。
もうぽつぽつ外人たちの這入りだした別荘べっそうならんでいる水車の道のほとりを私が散歩をしていたら、チェッコスロヴァキア公使館の別荘の中から誰かがピアノを稽古けいこしているらしい音が聞えて来た。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
わたしはお茶の前に庭へ出てみたが、例の垣根かきねへはあまり近寄らず、だれの姿も見かけなかった。お茶が済むと、わたしは三遍さんべん別荘べっそうの前の通りを行ったり来たりして——遠目に窓をのぞいてみた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
秋風あきかぜきはじめると、高原こうげん別荘べっそうにきていたみやこひとたちは、あわただしくげるようにまちかえってゆきました。そのあたりには、もはや人影ひとかげえなかったのであります。
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「まだ、別荘べっそうにいるひとたちででもあるかなあ。」
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)