冒涜ぼうとく)” の例文
その冒涜ぼうとく的な調子をとがめるようにお弓。これは隠居が戸口から引返したために、引入れた久吉が見付からなくてホッとした姿です。
冒涜ぼうとくとさえも思われた——しかもその他人を、彼はジャックリーヌよりも幾倍となく愛していたし、また愛せられてもいたのであるが。
かの女はむす子のことをこの青年に話すことは、何故かこの頃むす子に対する気持を冒涜ぼうとくするように感じて、好まなくなっていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たとえ相手が人殺しであっても、そんなふうに覗き見をするというのは非道であり、むしろ神聖を冒涜ぼうとくする、という感じさえした。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道学者気取りで癪だから、猫の草紙を作って、その八犬伝を冒涜ぼうとくしてやれ! 彼等のなすところは、せいぜいそんなものでありました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一方には、強盗、密売、詐欺、暴行、猥褻わいせつ、殺人、あらゆる種類の冒涜ぼうとく、あらゆる種類の加害。そして他方には、潔白のただ一事。
神の作りたまえる人間と、寸分たがわぬ模写人間を作ろうとしたことが、既に神に対する取りかえしのつかない冒涜ぼうとくだったかも知れない。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
その悲壮な心情に対して、いわゆる組織の上にヌクヌクとすわりこんでいたボル派の奴らが、冒涜ぼうとく的な言辞をろうすることは断じて許せない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
一つは、イエスは神の子だからいかなる奇蹟でもなしうるのだ、奇蹟の説明を試むるなどは冒涜ぼうとくである、という頑固な信仰的態度である。
猿之助は帰ったあとで、尺八の方の人が残っていたが、それも帰ると、浜子の芸術を冒涜ぼうとくするということを、彼女は雄弁に泣いていさめた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
財として物を持つ人は、真の持手とはいえぬ。むしろ物への冒涜ぼうとくといってよい。悲しい哉、そういう蒐集家がこの世には絶えぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
乱交、不自然な情欲、婚床の冒涜ぼうとく、私通の結果を隠蔽するための不当な術策は、明かに罪悪の部類に属する予防的妨げである。
一つの音を出すにも並大抵のことではないという真剣な芸術論に触れ、自分のやっていたことがまるで冒涜ぼうとくのようにふり返られたのである。
美術学校時代 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
彼らがこんなことを言いだすのは絶望に陥った時、そのことばは神を冒涜ぼうとくするものとなり、それによって彼らはいっそう不幸に陥るだろう。
何よりも本質的なる、詩的精神そのものが冒涜ぼうとくされ、一切の意味で「詩」という言葉が、不潔につばきかけられているのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もしおれが、お前を失う苦痛を知ったら、おれに委せて置け、おれはすばらしい冒涜ぼうとくの言葉を神に叫ぼう——おとなしく引っ込んでいるように。
これは決して音楽を冒涜ぼうとくするものではなくて、音楽の領域に新しきディメンジョンを付加することの可能性を暗示するものではないかと思われる。
踊る線条 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
別にそう商売人じみたところもないので、銀子は加世子にはなつかれもしたが、それがかえってはたの目に若い娘を冒涜ぼうとくするように見えるらしかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは少なくとも個人の尊厳の冒涜ぼうとく、すなわち自我の放棄であり人間性への裏切りである。また、悪を憤る精神の欠如であり、道徳的無感覚である。
戦争責任者の問題 (新字新仮名) / 伊丹万作(著)
内心「時間潰しキルタイム」に過ぎない遊戯と思いながら面白半分の応援隊となっていたが、それ以来かくの如き態度は厳粛な文学に対する冒涜ぼうとくであると思い
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
口へ出して「二人は永久に愛しあいましょう、一しょになりましょう」などとわざわざ言うのは、わたしたちの愛を冒涜ぼうとくするようにさえ感じられたのです。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
反対に、あったことというと、ソルティーニの手紙を冒涜ぼうとくしたということと、使者を侮辱したということなんですの
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
故に昔の人もこれらの実例の中で、特に前後の事情の不可思議なるものを迷子と名づけ、冒涜ぼうとくを忌まざる者は、これを神隠しとも呼んでいたのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かえって、一方の太閤にたいしてはわたくしは、これを種本として扱うにも、そう冒涜ぼうとくの罪は感じないのである。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けだし此のことは、老大納言その人に取ってはいたましい結末であったけれども、滋幹に取っては、父が母の美しさを冒涜ぼうとくせずに死んでくれたことになるので
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まるで私自身の不愉快な気質によって特に冒涜ぼうとくされているようで、私は父に就て考えるたびに咢堂の言葉を私に当てはめて思い描いて厭な気持になるのであった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
というのが、私(DAZAI)の小説の全貌なのでありますが、もとより之は、HERBERT EULENBERG 氏の原作の、許しがたい冒涜ぼうとくであります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
狂信的なイスラム教(回教)と相容あいいれないばかりか、これを冒涜ぼうとくする性質さえ持っていたために、ペルシアにおけるイスラム教勢力が衰えた最近代にいたるまでは
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
道徳律の蹂躙じゅうりん者、大自然への冒涜ぼうとく者に対しては、何らの制裁権をも持たぬいかに無力な存在であるかということを、声を大にして叫ぼうとしたにほかならぬからなのだ。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
かえって人間冒涜ぼうとくであり、この日常性の額縁をたたきこわすための虚構性や偶然性のロマネスクを、低俗なりとする一刀三拝式私小説の芸術観は、もはや文壇の片隅へ
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
こうした境遇に置かれた時、私が自暴自棄じぼうじき的な気持ちになったのはとがめらるべきであろうか。無論私は、咎めらるべきである。私は私自身の生命を冒涜ぼうとくしているのである。
彼女の性格に対して、軽慮な失礼な言葉をお用いになるのは、彼女を冒涜ぼうとくするというものです
それだのに、今では、ある仕事を分担すると、同時に、人間を冒涜ぼうとくするようにさえなります。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
これは決して白鷹先生の家庭の神聖を冒涜ぼうとくする意味ではない。私が同氏の人格をこの上もなく尊敬し、信頼している事実を告白するものである事を固く信じているからである。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そしてフランシスのごときものを物語的な心持ちで読むほどの冒涜ぼうとくは少ないと思います。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
右近と左太夫とは、付近に人がいるのを知ると、はっとしてその冒涜ぼうとくな口をつぐんだ。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
でなければ限りなく深遠であるところの真理や価値を冒涜ぼうとくしていることにほかならぬ。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
「技術の進歩」といううぬぼれが、屡々古人の精神を忘却しかねない。復興のつもりで却って冒涜ぼうとくするような結果を招く例は、今日の古典取扱いの中にいくらでも指摘出来るだろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
あれは実に神の冒涜ぼうとくというものです。どうしてみんなは、こう平気でいられるのか。話はすこし違いますが、嘉永六年に異国の船が初めて押し寄せて来た時は、わたしの二十三のとしでした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
巍幸にして天下の為に死し、太祖在天の霊にまみゆるを得ば、巍も亦以てはじ無かるべし。巍至誠至心、直語してまず、尊厳を冒涜ぼうとくす、死を賜うもくい無し、願わくは大王今に於て再思したまえ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるいはかえって冒涜ぼうとくしたのではないかともおそれている次第であります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
真理へ向かって歩む文化への冒涜ぼうとくでなければならぬのであります。
何人もその権威を冒涜ぼうとくしようとは思わなかったのである。
あたか冒涜ぼうとくの感を起すといふのが、初、二節の意である。
薄紗の帳 (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
みだりに足を使うことは文明への冒涜ぼうとくである。
字で書いた漫画 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
それ以上をいうのは冒涜ぼうとくにすら感じられた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「けがらわしいものだ! 冒涜ぼうとくだ!」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
冒涜ぼうとくはおつつしみ下され
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そこで音楽を聞くことはとても辛抱できなかった。それは一つの冒涜ぼうとくだった。最初の曲が終わったらすぐに帰ろうと彼は決心した。
またかの女の芸術的良心というようなものが、それは息子の芸術へというばかりでないもっと根本の芸術の神様に対する冒涜ぼうとくをさえ感ずる。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)