ぢゆう)” の例文
「いよ/\お別れが来ました。二三日ぢゆう貴方方あなたがたと別れなくつちやならんかも知れん。」軍曹はいぬのやうに悲しさうな眼つきをして言つた。
それには、動物的な凄味と、妙に鋭く冷たい超人間的な威壓力ゐあつりよくとがあつた。そして更に妖婆えうばの持つ無氣味さがそのからだぢゆうから發散してゐた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
法科大学教授大川わたる君は居間の真中まんなか革包かばんを出して、そこらぢゆうに書物やシヤツなどを取り散らして、何か考へては革包の中へしまひ込んでゐる。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
がいには幹の白い枝から数尺すうしやくひげを垂れた榕樹ようじゆや、紅蜀葵こうしよくきに似た花を一年ぢゆうつけて居ると云ふや、紫色ししよくをした昼顔の一種五瓜竜ごくわりようなどが目にる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「おい、もう一家をさがさう。つかれついでだ。今日ぢゆうさがしてしまつて、それからゆつくり落ちつかうぢやないか。」
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
このぢゆう申し上げた滋賀津彦しがつひこは、やはり隼別でも御座りました。天若日子でも御座りました。てんに矢を射かける——併し極みなく美しいお人で御座りましたがよ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「さうよ。そんな仕事に驚くやうぢや、手前たちはまだ甘えものだ。かう、よく聞けよ。ついこのぢゆうも小仏峠で、金飛脚かねびきやくが二人殺されたのは、誰の仕業だと思やがる。」
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこらぢゆう夜具箪笥風呂敷包の投出されてゐる間々あひだ/\に、砂ほこりを浴びた男や女や子供が寄りあつまり、中には怪我人の介抱をしたり、または平気で物を食べてゐるものもある。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
脊中せなか一杯いつぱいしよつて、二十日はつかなり三十日さんじふにちなり、其所そこぢゆうまはつてあるいて、ほゞつくしてしまふとやまかへつて坐禪ざぜんをする。それから少時しばらくしてふものがなくなると、また筆墨ふですみせて行商ぎやうしやうる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこいらぢゆうギラギラしてたまんねえ。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夫人は庭からべにと薄黄との薔薇ばらを摘んで来て「二三日前の風と雨で花が皆いたんで仕舞しまひました。これでも庭ぢゆうでの一番立派な花を切つたつもりですがんなに見所みどころがありません」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「いつかぢゆうから一度言はう/\と思つてゐたが、君の身装みなりは余りぢやないかね。」
私はふと、私のぼんやりしたその空虚くうきよな心のなかから、きふに、かうしてゐてもはじまらない、今日ぢゆうに家をつけなければ、と思ふあわたゞしい気持きもちが、あわのやうにぽつかりと浮き上つて来た。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
このぢゆう市街まちの景気のいゝのもみんな自分のせゐのやうに思はれて、通りがかりの市会議員も博多織の織元も、狗も、電信柱も、一緒に腰をかゞめて自分の前にお辞儀をして居るやうに思はれ出した。