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三月
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さんぐわつ
三月のはじめ、
御近所のお
醫師に
參つて、つゝましく、しをらしく、
但し
餘り
見榮のせぬ
男の
二の
腕をあらはにして、
神妙に
種痘を
濟ませ
二日も
三日も
同じやうな
御惱氣の
續いた
處、
三月十日、
午後からしよぼ/\と
雨になつて、
薄暗い
炬燵の
周圍へ、
別して
邪氣の
漾ふ
中で、
女房は
箪笥の
抽斗をがた/\と
開けたり
いふまでもなく
極月かけて
三月彼岸の
雪どけまでは、
毎年こんな
中に
起伏するから、
雪を
驚くやうな
者は
忘れても
無い
土地柄ながら、
今年は
意外に
早い
上に、
今時恁くまで
積るべしとは
今年三月の
半ばより、
東京市中穩かならず、
天然痘流行につき、
其方此方から
注意をされて、
身體髮膚これを
父母にうけたり
敢て
損ひ
毀らざるを、と
其の
父母は
扨て
在さねども、……
生命は
惜しし