ねず)” の例文
銘仙矢絣やがすり単衣ひとへに、白茶の繻珍しゆちんの帯も配色うつりがよく、生際はえぎはの美しい髪を油気なしのエス巻に結つて、幅広のねずのリボンを生温かい風が煽る。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は洋服であつたが、種田君は其頃紳士仲間に流行はやつた黒の繻子目しゆすめのマントを着て、舶来はくらいねず中折帽なかをればうかぶつて居た。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
そこあいちやんがふには、『ねずちやん、おまへこのいけ出口でぐちつてゝ?わたし全然すつかりおよ草臥くたびれてしまつてよ、ねずちやん!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ともの優しい、客は年の頃二十八九、眉目秀麗びもくしゅうれい瀟洒しょうしゃ風采ふうさいねずの背広に、同一おなじ色の濃い外套がいとうをひしとまとうて、茶の中折なかおれを真深う、顔をつつましげに、脱がずにいた。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから越後を通って九月にはもう羽前のねずヶ関に来ているから、この地では腰を落ち付けて休む家もなかったのである。「鰐田あきた刈寝かりね」は九月以後の日記である。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同島南海岸を逍遥しょうよう中、海浜より七、八メートル離れた這松はいまつの根元に、四十五、六歳ぐらいのねず背広、格子縞こうしじま外套オーバアーの紳士がくれないに染んで倒れ、さらに北方十二メートルのところに
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
同じ時の作には 遠く来ぬこしの海府の磯尽きてねずが関見え海水曇る などがある。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
戸閾とじきみねずや、——さながら
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
かつ此麽こんなことをしたことはないのですが、にいさんの拉典語ラテンご文典ぶんてんに、『ねずみは——ねづみの——ねずみに—ねずみを——おゥねずちやん!』といてあつたのをおぼえてましたから
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
山形県に入ってはねずヶ関・三瀬さんぜの辺からしだいに多くなり、果もなく北の方へ続いている。太平洋岸でも常陸ひたちを過ぎて、磐城いわきの浜づたいをすると急にこの花の群れが盛んになる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ねずちやん!もどつておでよ、可厭いやなら、もうねこいぬことはなさないから!』ねずみはこれをいて振返ふりかへり、しづかにふたゝあいちやんのところおよいでましたが、其顏そのかほ眞青まツさをでした
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)