飯事ままごと)” の例文
好者すきものとなってみると、お雛様ひなさま飯事ままごとのようなことばっかりしていたんでは納まらない、そういう図々しいことをしてみたがるんです。
葉は厚く光っており、夏の末に咲く花は五味子ごみしのようで、熟した実は赤黒くて、形は蒸菓子むしがし鹿そっくりです。飯事ままごとに遣います。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
飯事ままごとのように暮している新夫婦か、まだ夢のような恋をたのしんでいる情人同士のようであった。貞奴の声は柔かくあまく響いていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
生命いのちかろんずること鴻毛こうもうのごとく、約を重んずることかなえに似たり。とむずかしくいえばいうものの、何の事はがあせん、人殺しの飯事ままごとだ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
豹一とお駒の散歩は、赤井に言わせると、飯事ままごとに過ぎなかった。つまり豹一あいつは臆病なのだと、簡単に赤井は判断を下した。
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わあッ、わあッと云う声を挙げて、廊下から食堂へ、食堂から応接間へと駈け込んで来たので、ローゼマリーと飯事ままごとをしていた悦子がびっくりして
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は、国に居る時分は、お向うのおよっちゃん——子供の時分に飯事ままごとをして遊んだ、あのおよっちゃんが好きだった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大きくなったら一緒にって、田圃たんぼ積藁つみわらの蔭で、飯事ままごとをしながら約束したこともあるが、大きくなると、お松の阿魔あま、俺の見っともないのを嫌って逃げ出しやがった
「日本がおこるかほろぶかという非常時に、お飯事ままごとみたいな同棲生活どうせいせいかつに、酔っている場合じゃないと、ね」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は玄関の前に茣蓙ござを敷いて子供たちと飯事ままごとをして遊んだ。一生のうち此様な幸福な事はないと思った。夕刊小説は出来がよくなかったが、色々な人が金を貰いに来た。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この夫唱婦和という子供の飯事ままごとみたいな手緩てぬるい生気のない家庭は作れまいかと存じます。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
台所で子供の飯事ままごとのような真似をさせているだけなので、お玉は次第に話相手のない退屈を感じて、夕方になれば、早く檀那が来てくれればいと待つ心になって、それに気が附いて
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
三時の茶菓子おやつに、安藤坂あんどうざか紅谷べにや最中もなかを食べてから、母上を相手に、飯事ままごとの遊びをするかせぬうち、障子に映るきいろい夕陽の影の見る見る消えて、西風にしかぜの音、樹木に響き、座敷の床間とこのまの黒い壁が
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのころ習い初めた琴をくことさえ止められて、一人で人形をかかえては、遊び相手を欲しがって常は疳癪かんしゃくを恐れて避けている弟をもお祖母様のそばに呼んで飯事ままごと旦那だんな様にするのであったが
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
冷たい感触の漂う奥の仏室で、まだ五つになるかならずの彼女は姉の綾子(双児ではあったがお光は妹分にされていた、それは一生そうであった)と二人で紅椿の花で飯事ままごとをして遊んでいた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
稀に遊びに来ては甘藷いもを洗ったり、外竈そとへっついいて見たり、実地の飯事ままごとを面白がったが、然し東京の玄関げんかんから下駄ばきで尻からげ、やっとこさに荷物脊負せおうて立出る田舎の叔父の姿を見送っては
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これらの文豪に比べて遥に天分薄い日本の文人亜流——自分もその一人として——の文学三昧は小児の飯事ままごと同様の遊戯であって、人生のための文学などとは片腹痛い心地がして堪えられなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
きいちゃんは飯事ままごとをしようといい出した。けれども乃公は最早もう愛想が尽きたから、可厭いやだといって断った。断っても聞分けがないから仕方がない。乃公が旦那様になって、菊ちゃんが奥さんになった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小さい飯事ままごと道具を一そろいそれも人形のわきに納められた。
悲しめる心 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
飯事ままごとのような結婚式を挙げました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
ステラ それぢや、飯事ままごとね……
チロルの秋(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
飯事ままごとに唖の子つくねんとしてたち
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
朝夕の涼しい時刻には庭の青桐あおぎり栴檀せんだんの樹のあたりで、電車ごっこや木登りをして遊ぶのであるが、日中は家の中で、少女たちばかりの時は飯事ままごとをし
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どんな御身分の方が、お慰みに、お飯事ままごとをなさるんでも、それでは御不自由、これを持って行って差上げな、とそう言いましてね。(言いつつ、古手拭ふるてぬぐいほどく)
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みっちゃんは外歯そっぱのお出額でこで河童のようなだったけれど、およっちゃんは色白の鈴を張ったような眼で、好児いいこだった。私は飯事ままごとでおよっちゃんの旦那様になるのが大好だった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
怨んでいるとすれば、お関母子おやこでございましょう。あの幾松という男は子供のとき飯事ままごとみたいな話でしょうが、夫婦約束までしたそうで、長いあいだお由良をつけ廻していましたよ。
妬心としんの間の諒解りょうかいと、愛の分割と集中とを自由に許される気持のうちに、夢のような、飯事ままごとのような、また何ともいえない甘苦しい陶酔のうちに、それでも無事に日は進行して行きましたが
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私一人だけが若い娘たちの面前で、飯事ままごとのようにお櫃を前にして赧くなっているのだ。クスクスという笑い声もきこえた。Kはさすがに笑いはしなかったが、うちいややわと顔をしかめている。
大阪発見 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それでなくて愛国をいうのは畢竟ひっきょう大人の女の飯事ままごとではないか。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「エライことッて、若い女のひとと飯事ままごとをすることなの」
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
子供が戦争いくさごッこをやッたり、飯事ままごとをやる、丁度そう云った心持だ。そりゃ私の技倆が不足なせいもあろうが、併しどんなに技倆が優れていたからって、真実ほんとの事は書ける筈がないよ。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と、或る時貞之助は、悦子がお花と飯事ままごと遊びをするのに、注射の針の使いふるしたのを持って来て、しんわらで出来ている西洋人形の腕に注射しているのを、ふっと見かけたことがあった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
飯事ままごとをして遊んでいるのがありました。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
悦子がさっきからローゼマリーと二人で蹲踞うずくまりながら、飯事ままごとをしていた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)