非道ひど)” の例文
うっかり素人下宿に泊って非道ひどい眼に会った学生、又はうっかり腰弁さんを下宿さして散々な眼に会った未亡人なぞがいくらもある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「なってもいゝけれど、此の間見たいに非道ひどい乱暴をしっこなしですよ。坊ちゃんは縄で縛ったり、鼻糞をくッつけたりするんだもの」
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いづれにしても同氏が現文壇の批評家として名のある人である事と、且つ非道ひどい誤譯をする人だといふ以外には殆ど何も知る處が無かつた。
一度くじを引きそくなったが最後、もう浮ぶ瀬はないという非道ひどい目に会うからではなくって、どっちに転んでも大した影響が起らないため
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老人は近代戦争の兵器と人間との全面的衝突の恐るべき事を説いて「戦争に軍略と云うものがなくなった」と云う事を非道ひどく慨歎して居た。
「処が男の眼にはどこかいいところがあるんでしょう。この女には随分悩まされて非道ひどいめにあった人が沢山あるんですよ」
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
『何うして黙っている? お前は非道ひどい奴だ。俺を一体何と思っている? 殺して了うぞ。』と、恐ろしい権幕で言うから
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
やい、しっかりしろ。と励ませば、八蔵はようように、脾腹ひばらを抱えて起上り、「あいつ、あ痛。……おお痛え、痛え、畜生非道ひどいことをしやあがる。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『嫌悪感——というもんは非道ひどいもんだな、鱗粉が触っただけで、皮膚が潰瘍かいようするばかりか、心臓麻痺まで起すんですね』
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
するとお父さんが突然いきなり上って来て、乃公の首筋を捉えて、蔵へ連れて行って表から鍵をかけてしまった。音なしく勉強しているものを、非道ひどい事をする。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
友達が連れて帰ってくれたのだったが、その友達の話によると随分非道ひどかったということで、自分はその時の母の気持を思って見るたびいつも黯然あんぜんとなった。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
わたくしは知りませんが隣り屋敷の家来が塀へのぼって見たらの男だと云う話ですが、非道ひどい奴ですなア」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの方の目を別段変つた目だとは、これ迄思つたことはございませんでしたが、今日に限つて何だか非道ひどく光つて恐ろしい目のやうに存ぜられましたのでございます。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
貴方あなたはもう忘れておしまいなされたか。貴方はわたしを非道ひどい目におあわせなさいました。ほんにほんに非道いめに。だが、世の中の事は何でも苦痛に終らぬ事は無い。
そうしたら、電車に別れて、あの辺特有の、今ならば霜解けの非道ひどい、鋪装ペイヴしてない歩道わきの土を踏まなければなりません。ベニイの家は、その近くから始まっています。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
美伃 お父さん! お父さん! それは非道ひどいわ。あんまりだわ。妾の母さんは……。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
にくい奴、非道ひどい奴!——こんなむごたらしい殺し方をしたのは、何処の何者だッ」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかししまりはよさそうゆえ、絵草紙屋の前に立っても、パックリくなどという気遣きづかいは有るまいが、とにかく顋がとがって頬骨があらわれ、非道ひどやつれているせいか顔の造作がとげとげしていて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何んでも書物を蠹害とがいするという事をシミが一手に引受けているのは可愛想だと私はいいささかシミに同情している。ただもうシミ一つを目の敵のように言うのはチト非道ひど過ぎはしないかと思う。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
彼は益々強慾がうよくになり貸金の回収手段の非道ひどさは随分泣かされてゐる人間も多く、家作も次々に建てたが、最近手を出した製氷所が失敗して、癲癇てんかんになつたのも積悪の報だらう、と云ふ噂を聞いた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
私はむつとして「なんといふ、非道ひどいこと。いくら子供だつて」
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ものの三十分も待たされて、どうも非道ひどい目に会った。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
忠太郎 そ、そりゃ非道ひどいやおッかさん。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「あの曲馬団長のバード・ストーンは私の両親を苛め殺したのです。直接に手を当てて殺す以上に非道ひどい眼に会わして殺したのです」
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして長居をすればするほど、だんだん非道ひどく冷かされそうなので、心の内では、この一段落がついたら、早く切り上げて帰ろうと思った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君は、僕のおかげで、飛んだ非道ひどいめに会ったんだ。僕は今日終日、悠然と眠らせておいて上げようと思ってたんだが。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
先づ、どうして學校をやめる氣になつたのかと口を切つて、いろいろ話をしてゐるうちに、相手は非道ひどく眞劍になつて、此の頃の心の惱みを物語つた。
貝殻追放:016 女人崇拝 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
(春先からの徴候が非道ひどくなり、自分はこの頃病的に不活溌な気持を持てあましていたのだった。)
路上 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ただ「御縁無之」とばかりで何の理由も示さないのは、人を遠くから呼びつけて置きながら非道ひどいと云うことは別にしても、菅野家へ対して失礼ではないであろうか。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
素早く僕は宛名に眼を通し出したが、急いでるのと、何しろどれもこれも非道ひどい悪筆のうえに、おまけに得態えたいの知れない外国語がおもなので、名前だけでも容易に読めない。
この手紙を読み終って、あたしは悲歎ひたんに暮れた。なんという非道ひどいことをする悪漢だろう。銀行の金を盗み、番人を殺した上に、松永の美しい顔面をむごたらしく破壊して逃げるとは!
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うむ、そうさ。だが処もあろうのにここは非道ひどいや、もうおいら達あ、姉御が世話を
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「他に細君があった! それはまた非道ひどい処へ行ったものだねえ。欺されたの?」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
きいちゃんのお蔭で空気銃は買えなくなる。遠眼鏡は破約ふいになる。背中は未だぴりぴりする。真正に非道ひどい目にあった。それで忠公は少しも叱られやしない。何処までも運のい野郎だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それに今日に限つて、いま妻が鵇色ときいろの長襦袢を脱いで、余所よそ行の白縮緬ちりめんの腰巻を取るなと想像する。そして細君の白い肌を想像する。この想像が非道ひどく不愉快であるので、一寸ちよつと顔をしかめる。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それだのに、今出て行って貰うなんて非道ひどいわ。そんなこと出来ないわ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
「あらあらあんな虚言うそいて……非道ひどい人だこと!……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「アッ。君はあの時の孝行娘さんかえ。これあ驚いた。そういえばどこやらに面影が残っている。非道ひどいお婆さんになったもんだね」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ無言のうちに愛想あいそうを尽かした。そうして親身の兄や姉に対して愛想を尽かす事が、彼らに取って一番非道ひどい刑罰に違なかろうと判断した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんな非道ひどい恐しい目に会ったのも、巡査やホテルの人達の前で赤恥を掻いたのも、皆貴方の無責任から来たことです。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
それも、約束どおり働かなかったり、或いは逆に、蒸気が上り過ぎて室内が温室のようになったりして、とかく、この瑞西スイツルのホテルのステイムには非道ひどい目に会うことが多い。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
不意をくらってまなこくらみ「いてえ。」と傷をおさえしが、血をて、「えッ非道ひどいことを。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫の方は一層疲れかた非道ひどうて、事務所い行たかて頭役に立てしませんさかい、自分は休みたいのんですが、あんまり休むと「姉ちゃんの傍にばっかりいてたがる」いわれますよって
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
気がついてみると、それはいつも自分がMの停留所へ歩いてゆく道へつながって行くところなのであった。小心翼々と言ったようなその瞬間までの自分の歩き振りが非道ひどく滑稽に思えた。
路上 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
それだのに、今出て行って貰うなんて非道ひどいわ。そんなこと出来ないわ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
乃公の家へ来て非道ひどい目に遇い続けだ。気絶をさせられたり、杖を折られたり、帽子を忠公に持って行かれたり、どうも散々な事ばかりだ。それでもしょうこりもなくやって来る。真正ほんとうに無神経な男だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
僕はそれまで蕎麦そば屋や牛肉屋には行ったことがあるが、お父様に連れられて、飯を食いに王子の扇屋に這入った外、御料理という看板の掛かっている家へ這入ったことがないのだから、非道ひどく驚いた。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれども其の人間も随分非道ひどいねえ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ッ、こりゃ非道ひどい!」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「これは非道ひどい。」