静寂せいじゃく)” の例文
旧字:靜寂
耳を澄ますと玄内の寝息が安らかに洩れて来るばかり、暁近い寺島村は、それこそ井戸の底のように静寂せいじゃくそのもののすがたであった。
公園には人影ひとかげがなかった。乾干ひからびた電車の音だけが夜の静寂せいじゃくを破っていた。空には星、地にはアーク灯、それのみが静かに輝いていた。
冬の、(イヤ、秋かな、マアどっちでもいいや)まだ薄暗いあかつきの、静寂せいじゃくを破って、上り第○号列車が驀進ばくしんして来たと思い給え。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夜明けの静寂せいじゃくをやぶるのをおそれるかのように、おりおり用心ぶかく首をかしげるその姿には、敬虔けいけん信仰者しんこうしゃ面影おもかげを見るような気もした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その静寂せいじゃくの時間がやや長くつづくと、石だ、石だ、という声が、こんどはだれいうとなく、石太郎よりもっとも遠い一角より起こってくる。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
静寂せいじゃくな闇の中に、やがてハリハリと杉の枯れ葉の燃える音がした。続いて枯れ柴のパチパチと燃え上がる音がして来た。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
声をかけて置いて、じっと聞き耳を立てたが、吾声わがこえ攪乱かきみだした雑木山の静寂せいじゃくはもとにえって、落葉おちば一つがさとも云わぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
時折、雨戸のふくらむような峰の風がぶつかってくるが、それの過ぎた一瞬は、死界のような静寂せいじゃくに返ってしまう。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが反響の多いこの室内の爆笑は大変にぎやかだったが、一旦それが消えてしまうとなると、反動的に、墓場のような静寂せいじゃくがヒシヒシとせまってくるのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ピストルの音は一ぱつだけではなかった。つづけざまに、五発の銃声じゅうせい夕空ゆうぞらにこだまして、まち静寂せいじゃくをやぶった。
もしパンがライ麦のならばライ麦のいい所を感じて喜びます。これらは感官が静寂せいじゃくになっているからです。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
だが、かの女はそれはまだ逸作に対する表面の批評だと思った。逸作の静寂せいじゃくは死魂の静寂ではない。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そよぎ渡るその風の間に、このあたり向島むこうじまの秋らしい秋の静寂せいじゃくが初めて宿って、落ちかかった夕陽のわびしい影が、かすかなしまをつくり乍ら、すすきの波の上を流れていった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
ひとり娘を尼院に預けて、マタ・アリは離婚を取り、当時、大戦という大暴風雨の前の不気味な静寂せいじゃくに似た、世紀末的な平和を享楽しつつあったヨーロッパに、自活の道を求めた。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
大地だいちをゆるがす砲車ほうしゃのきしりと、ビュン、ビュンとなく空中くうちゅうくような銃弾じゅうだんおとと、あらしのごとくそばをぎて、いつしかとおざかる馬蹄ばていのひびきとで、平原へいげん静寂せいじゃくやぶられ
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
十本あまりの毒刃は、ズ、ズ、ズと、趾先つまさきですり寄る刺客たちと一緒に、二人の前後に押し迫る。それが、二間に足らぬところまで来ると、おのずと止って、シーンとした静寂せいじゃく——死の沈黙。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
手塚は光一をなだめなだめして手をいて去った。境内けいだいはふたたびもとの静寂せいじゃくにかえった。さらさらさらと動く松のこずえの上に名も知らぬ小鳥が一つどこからともなく飛んできてさえずりだした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
百人ちかくの試験官の見張みはり監督していても、ただ水を打ったように静寂せいじゃくを極めて、廊下ろうかの板をふむ巡視の靴音くつおとさえも聞こえないほど静かで、ほとんど人なきがごときさまであるところの玄関に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「素敵だなア!」何となく感歎かんたんしてしまえる静寂せいじゃくであった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
静寂せいじゃくを守ってお暮らしになっています。学者中で
かくて大騒ぎをした後に、静寂せいじゃくが落ちてきた。
静寂せいじゃくが広間いっぱいにこもりました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
突然白け切った夜の静寂せいじゃくを破って、けたたましい音響がほとばしる。毒々どくどくしい青緑色せいりょくしょく稲妻いなずま天井裏てんじょううらにまで飛びあがった。——電路遮断器サーキット・ブレッカーが働いて切断したのだった。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
緑の山々に取囲まれた、静寂せいじゃくなみずうみの景色は、最初の間、どんなに私をたのしませた事でしょう。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
突然! 谷底へでも突き落とされたような悲鳴が、ヒイーッと山の静寂せいじゃくを破った。それは、ただの恐怖や単純な驚きとは思えぬ、強く胸を衝ってくるおさない者の絶叫だった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晩春ばんしゅんの夜、三こく静寂せいじゃくやぶって、とつ! こぶ寺うらに起る剣々相摩けんけんそうまのひびきだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
相手のあららいだ息も静まって、死の静寂せいじゃくがおとずれた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
闇と寒さと、墓場の様な恐ろしい静寂せいじゃくの中に、四人の者は、お互の身体に触れ合うことによって、僅かに一人ぼっちでないのを確めながら、どうする智恵も浮ばず、黙りこくっていた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
といっているとき、夜の静寂せいじゃくを破って、どどーんの一大音響が聞え、愛宕山あたごやまが、地震のように動いた。それと同時に、山手寄りの町に炎々えんえんたる火柱がぐんぐん立ちのぼって、天をがしはじめた。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一瞬間死の様な静寂せいじゃく、続いて湧起る恐怖のざわめき。訳の分らぬののしり声。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
実験室の静寂せいじゃくと平和とは、古石垣ふるいしがきのようにガラガラと崩れて行った。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
棺の中の闇と静寂せいじゃくとが、彼女の心に、不思議な作用を及ぼしたのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
恐ろしい静寂せいじゃく、恐ろしい地底の一刻!
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ややしばらく、不気味な静寂せいじゃく
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
嵐の前の静寂せいじゃく
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)